手のひらクルー

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手のひらクルー

 一人のモテない男があった。名は蛭児(ひるこ)彼は生まれてこの方、女性には縁がない。 幼稚園入園の時点で女の子からは「ブサイクー」とバカにされるぐらいの醜男(ぶおとこ)、恵比寿を思わせる程の細目で黒目も見えず、鼻も低く、唇も腫れぼったい、開く唇から見える歯並びはボロボロ、髪の毛も天然パーマでところどころがクルンクルン、脂肪を溜めやすい体質なのか体型はとてもふくよかで胸は女性を思わせる程の脂肪の塊、腹も腰も尻もスリーサイズは皆完全一致、尚且全身毛深い。女性から見れば「気持ち悪い」とされる外見が全て揃っていた。頭も悪くテストの順位は毎回最下位スレスレ。運動神経もふくよかな体型が邪魔するのか全くの皆無。生まれ持った顔も体型もそう変わる訳もなく、小中高大一貫して女子からはブサイク扱いかつゴキブリのように忌避されてきた。就職した後もそれは変わらない。 彼の勤める会社で行われている「結婚したくない男ランキング」では毎年不動の一位である。  そんな蛭児に転機が訪れたのは四十手前のアラフォー男子となった時に趣味で小説を書き始めた頃だった。女子から相手にされないせいか妄想でああしたいこうしたいと言う願望を魂を込めて書いた恋愛小説を駄目で元々、いや、お遊びと言う方が正しいだろう、そんな気持ちで名のある小説のコンテストに応募したところ、何とグランプリを取得してしまったのである。  蛭児は一躍時の人となり、彼が書いた恋愛小説もグランプリ受賞作として直様に出版され瞬く間に100万部を売り上げた。メディアミックス化も極めて迅速で、映画化・ドラマ化・漫画化・アニメ化が数年の間で成され、普通に会社員をしていては一生見られない程の収入が入ってくるようになった。出版社も彼の恋愛小説一本だけで新社屋を建てられる程に儲けを出す程である。 トドメには恋愛小説内でヒロインが歌う主題歌の作詞も行った。この歌は映画・ドラマ・アニメで使われ一大ブームとなり、このCD不況下の状態で200万枚を売り上げ、動画サイトの再生数も一億再生数を超え、カラオケランキングも映画公開以降ずっと一位をキープ。 蛭児には動画収入・作詞印税だけで信じられない程の収入が入ってくるようになっていた。  蛭児は一躍、遅咲きの大文豪・大先生として持て囃された。それにも関わらず彼は会社を辞めずに未だに会社員を続けている。 「禍福は糾える縄の如し」彼はそれをわかっており、大金があったとしても贅沢な暮らしをせずに欲しい物があれば自由に買えるようになった程度の慎ましやかな生活を続けていた。
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