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Prologue
「いいかい? 今宵はとても恐ろしい物語を聞かせよう」
しわがれた老婆の声が薄暗い部屋に響き渡る。
ぎぃい、とロッキングチェアが揺れる音が木霊した。丸テーブルの上に置かれているランタンが辛うじて部屋を明るくしているが、傍に置いてあるロッキングチェアに座る主の姿は見えない。
小さな子供足音が部屋全体を包み込むように反響する。
「ねぇ! ばぁば! 聞かせて、聞かせて!」
「焦るではないよ。これは強大な力を持った魔導書のお話、さ」
老婆は優しい声音でそっと語り始めた。
世界を覆う神秘の力――マナ・スフィアの力を使うことが出来る魔導士達は、マナの力の追求を理念として研究を続けていた。その中で仲の良い兄弟の魔導士がいた。
兄弟はマナの力を使うことで人間の力を引き出せる、と言う研究を行っていた。世界各地を巡り、人間の無限の可能性を追求し続けた。彼らがその果てに行きついた答えが、魔導書である。
魔導書とは、魔導士が生み出した力を書き残した手順書である。マナをどのように変化させ、環境にどう作用するのかを示した書物だが、それは危険な物であった。魔導士が書き記した魔導書の中には禁忌に該当する物も存在し、他の魔導士の手に渡った際に悪用しかねない事態となってしまった。
世の中に溢れ出す魔導書を管理するべく、聖アルクル教会は魔導書だけを納める大図書館を作った。
「ねぇ、ばぁば……聖アルクル教会って?」
「マナ・スフィアを生み出した偉い神様アルクルを信仰する教会のこと、さ。彼らはアルクルの力で魔導書を管理することを思いついたの、さ」
聖アルクル教会は魔導書の回収を始めたが、魔導士にとって魔導書は自らの力の追求に欠かせない物である。当然回収を拒む。そこで教会は力ある者を集い、力づくで回収を再び始めた。
しかしこれが後の悲劇――ワルプルギスの夜に繋がった。
魔導士と教会の激しい戦争が幕を開け、魔導士は自分達の力を守るためにさらなる魔導書を生み出した。兄弟の魔導士はまさにワルプルギスの夜に参加した魔導士で、自分達の崇高な研究を遂に完成させた。
自らの意思を持つ強大な魔導書集――〈グリム〉を生み出した。
魔導書〈グリム〉は、兄弟が生み出した魔導書の総称である。ワルプルギスの夜に魔導書〈グリム〉は、多くの教会の人々を屠り、その恐ろしさを世界に広めた。
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