練習1 ボタン

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練習1 ボタン

「ああ、もう無理。頭がどうにかなりそう」  とはじめに言ったのは俺の方だけど、 「じゃあ、練習、する?」  と言い出したのはルイの方だ。  ルイはこの神聖(セント)ウェヌス王国の王太子で、俺はルイの従兄。もうひとりの王位継承者候補としてこの王宮に連れてこられた。  ある日、混血の俺が王位に就くのを阻止しようと、暗殺者が俺を狙った。その暗殺を止めようとして、ルイが右腕を失った。  ルイが右腕を失ってから、俺はすべてのことに世話を焼いた。こうなったのは俺のせいだし、ルイのために何でもしてやりたい。もうルイの半身になってしまえたらいいのにと思う。  片腕になったルイは、俺に着替えの手伝いをさせる。  この国の服はやたらと装飾的で、小さなボタンが多い。ルイが新調した服は、首もとから一列びっしり小さな真珠のボタンがついていて、それをひとつひとつ留めたり外したりする。  ルイが寝巻きに着替えたいというので、そのボタンをひとつひとつ上から外していく。小さな丸いボタンが、指先で滑る。緊張で汗ばみ、余計に指が動かない。  ルイはそんな不器用な俺の指先を、いつも黙ってじっと見ている。伏せた金の睫毛は上から見ると長く、みっちりと生えていて、まるで天使の羽みたいだ。  滑らかなミルク色をしたルイの素肌が、俺の指のすぐ先にある。まっさらで、何の傷もない、生まれたばかりのような肌。その肌の色が、ボタンを外すたび、布の間に広がっていく。  ――ミルク色、睫毛の金、ボタンの真珠。それが交互に視界に入って、どんどん頭がぼんやりする。ミルク、金、真珠色、ミルク、指が滑る、金が揺れる、真珠が艶めき、ミルク、指先が触れた、ピクリと金が動き、指が震える、ミルク、もうだめ、丸い真珠、触りたい、広がる肌が、あまりにも白くて、金の睫毛、白さが、その白さが、  目に毒すぎる。
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