ボタンと蜂蜜の、そのあとで

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 どうしよう、奇跡のように可愛い。奇跡のように可愛いけれども、ダメだ。もしこれを認めてしまったら―― 「……ルイ、どうしたの? いま俺は、男のルイが好きだって話を――」 「この姿はいまだけだからさ」  ルイが強引に俺の言葉を遮る。長い睫毛を伏せて俯くと、どこからどう見ても、もう女の子にしか見えなかった。しかも、天使よりも天使のような、世界一可愛い女の子。 「オジサンになったらもうこんなことできないから、今日はこれで楽しも」  まずい。もしかしてルイは、こっちが思うよりずっと重症なのかもしれない。 「……このドレス、買ったの?」 「母が若い頃に着ていたやつ。古い箪笥に入っているのを見つけて、そっと持ち出しておいたんだ」 「何で?」  俯いたルイが、ドレスのリボンを指に巻きつける。その姿を見ていると、こっちが本物だったようなおかしな錯覚に襲われる。 「――ユリウスを好きになってから、女の子に生まれたらよかったのにって何度も思った。こんなこと悩んだって仕方ないって頭ではわかってるのに、いまでもときどき考えちゃうんだ。僕が女の子だったら、きっとぜんぶ丸くおさまった、いまよりもっと幸せだったんじゃないかって」  はじめて聞くルイの本心に、息が止まりそうになった。  結婚とか、世継ぎとか、世間体とか――ルイが言いたいのはそういうことだろうか? 俺はいまが幸せだから、漠然と、この幸せがずっと続くものだと思っていたのに。  ルイは俺よりもっと真剣に、俺たちの未来のことを考えていたのかもしれない。
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