ボタンと蜂蜜の、そのあとで

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 やってしまった――慌ててルイの口を開かせると、口の端から白いものがとろりと垂れた。それを急いで指で掻き出す。 「――もう、馬鹿! こんなことしなくていいのに! まずいだろ!」 「……ずいぶん過保護だね。自分はいつもやるくせにさ」  ルイが不満げにくちびるを尖らせる。 「そうだよ。めいっぱい甘やかして、俺じゃなきゃダメにしてやろうと思ってるんだから」  そう言うとルイはぱっと機嫌を直し、俺の胸に飛びついた。ばしゃんとお湯が飛沫をあげる。 「ユーリ――!」  呼びかけて、何を思ったのか途中で止める。ルイの瞳がきらりと輝いた。 「……ねえ、ユーリって呼んでいーい? ふたりきりの時だけ」 「えっ、いいけど」  気まぐれなルイの、ひっくり返るほど可愛い提案。 「ユーリ。好きだよ、ユーリ。過保護なユーリがだぁい好き」  さっそく連呼され、口元がだらしなく緩んでしまう。 「……じゃあ俺は、『俺の世界一可愛くてえっちなミルク色の猫ちゃん蜂蜜添え』って呼んでいい?」  ルイは、えっ、と声を上げ、大真面目な顔で俺を見上げた。 「ユーリってときどき馬鹿になるね。そんなに長ったらしい呼び名じゃ、会話が全然進まないじゃん。ルイは短いんだからルイのままでいいよ」  ……ルイはときどき恐ろしいほど冷静だ。でも折角なので何か特別なやつを付けてあげたい。 「うーん……じゃあ、他のを考えるから待って。ル……ル……」
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