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そのささやきに、心優の前にいたミセス准将が振り返る。
「コータ、興奮しすぎ」
アイスドールの冷ややかな眼差し。頬に赤みもない感情も宿していないその顔は、まだ慣れていない光太にはゾッとしたようで、一瞬にして押し黙った。
心優の後ろでシャキンと姿勢を正すと彼も真顔に。なのに、そこでミセス准将がふっと母親のような柔らかい微笑みを見せた。
「まったく、駒沢君みたいね」
あ、そういえば似ているかも。心優もそう思えた。夏に栄転で小笠原から司令部広報室へと異動してしまった駒沢少佐も、海軍、戦闘機、パイロット、空母、大好きな飛行マニアで、その熱い航空愛で広報を盛り上げていた男性。その少佐に負けぬ航空愛を、新人護衛官、吉岡光太は発揮している。
くすっと僅かに微笑んだミセス准将だったが、すぐに視線は雷神のパイロット達へ。
「いまの、俺、まずかったですか……」
心優の隣で、光太がこそっと呟く。
「ううん。むしろ、和んだんじゃないかな。でも謹んでってことだよ」
「う、和んでいたんすか? わ、わかりにくいっす。噂には聞いていたけれど――」
まったく読めない無感情ミセス――というのが、まだ慣れていない吉岡光太のミセス准将への感想。
「大丈夫だって、でも、いまからコンバットだからどんなにスゲエと思っても心のなかで、だよ」
「了解です。でも、すげえ、雷神のコンバット!」
だめだ、顔に出ているよ――と心優も苦笑い。またミセス准将がほんの少し微笑んで振り返ったのを、光太は気がついていない。
「航海までに演習に集中するように。行け」
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