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「心優は父ちゃんと会ったばかりだしな」
同じく、家族の見送りはもう別の日に終えているシドが隣に並んでいた。
「うん。シドもお父様とお母様に会えて良かったね」
「別に。見送りなんていらねえよ」
いつものシドの冷めた目。でも心優もわかる。こんな人目がつくところで大好きなお母様とお別れすると、シドも抑えられない感情が溢れて、それを見られるのが恥ずかしくなるのだろう。
「今度は猫隠れじゃないんだね」
「でも夜行性になるけどな」
「そうなんだ?」
「ま、指令室でおなじセクションの配属だからさ。よろしくな」
「こちらこそ。シドが一緒なら頼もしいよ」
にっこり笑うと、シドが照れて背を向け先に連絡船へと乗り込んだ。でも家族の見送りがない者同士、一緒に乗り込んで隣に座ると、シドがちょっと嬉しそうに口元を緩めてくれる。独りじゃないと感じてくれたようだった。
再度、クルーザー操縦士が声を張り上げる。
「急いでください。この後、波が立ってきますからその前に!」
それぞれ家族と最後の別れをかわし、ようやく連絡船へと向かってくる。
「お待たせ。いよいよね」
ヴァイオリンケースを持つ御園准将がキャリーケースを引きずりながら乗り込んできた。御園秘書室、指令室の一行乗船完了。いよいよクルーザーが離岸。
桟橋で光太のお母様とコナー少佐の奥様が特に前に出てきて、ずっと手を振っている。でも栗毛の少年は何度も母親を海へ見送ってきたせいか、後方にたたずんでいて落ち着いている。手を振りもしない。その姿が遠目に見ても、御園大佐に雰囲気が似て見える。容姿はお母様そっくりなのに、男としての雰囲気は父親そのものだった。
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