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管制室の緊迫感、そして雅臣と橘大佐の気迫を見せる横顔。そして目の前の、アイスドールの冷たい眼差しをしたまま淡々としているミセス准将。これだけの指揮官が放つキリキリとした空気を感じないわけがない。それが光太にもわかるようだった。
「雅臣、全機、キャプティブ弾を搭載済みだ。容赦しねえからな」
キャプティブ弾は、模擬弾のこと。発射はできないが、センサーのみつけられており、航空機が放出する熱源にむかって感知しトリガーを引いた時点で、ロックオンしたかどうかを判定する機能がついている。
「機関砲については、機関砲の照準に重なった時点でキルコールする」
「はい、徹底的にお願いします。できれば、英太を怒らせるぐらいで」
「簡単じゃねえか」
橘大佐がニヤッと不敵な笑みを見せた。
――雷神、行きます。
管制クルーの報告。1号機のスコーピオンから順に、カタパルト発進をし上空へと散らばっていく。
もうそれだけで、心優の横でぶるぶるとした興奮を必死に抑えている光太の姿。心優もちょっとだけ和んでしまいそうだった。
それでも光太は初めての空母艦を目の前に、きちんと大人しく控えてくれていた。
にしても……。心優は滅多にない切迫した指揮官達の鬼気迫る横顔に、また不安を覚える。
でも、臣さん。官舎ではいつだって、心優には優しくて楽しくて、頼もしいお猿さんでいてくれる。
今日、ここで彼のそんな大佐殿の険しい顔を知らないままになりそうだったと、思い改めさせられた気持ちになる。
自宅では、少しでも心優と楽しく過ごしたいという彼の気持ちも忘れたくない。妻としてなにを肝に銘じるべきか。心優はまだ自分はとっても未熟だと痛感してしまう。
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