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「ねえ、覚えてる?」
落下傘花火が、パァンと勢いよく夜空で開いた瞬間に、思い出してしまった。
ふわりふわりと風に流されていくパラシュート。
キャッチしようと波打ち際に向かい、同じものを追いかけていた睦希が、私の言葉にギョッとした顔で足を止めた。
「二度もやんないわよ」
ニヤリと笑ってジャンプをし、パラシュートをゲットする。
「オマエさ、あのタイミングで言う?! めっちゃ卑怯だろ!」
私と睦希のやり取りを見て、メイとワタルも思い出したらしく爆笑している。
「確かに卑怯だわ、葉月。絶対、睦希はトラウマだってば」
「良かったじゃん、睦希。今日は海に落ちなくて」
「うるせえわ!」
二人にからかわれた睦希は、鼻柱にシワを寄せて猫のように威嚇していた。
高1の夏、同じ場所、同じ季節。
今日と同じように落ちて来るパラシュートを目掛けて、睦希と張り合った。
あの時、どうしてもそれが欲しくて、私よりも30センチも背の高い睦希がジャンプした瞬間。
一瞬の迷いもなく、ドンッと彼を突き飛ばしたのだ。
後数センチで目指すものに手が届きそうだった睦希は、不意打ちを食らって海に落ちていった。
卑怯な手段で手に入れた、あのパラシュート花火は、今も机の引き出しの中にある。
『落下傘となんか交換してやっから、絶対取って来いよ、葉月』
私の耳元でそう囁いて、あの落下傘花火を打ち上げたのは、准だった。
10年後、同じ場所、同じ季節、同じメンバー、だけど。
あの時と違うのは、ここに准だけがいない。
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