元カノ

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「お知り合いなんですか?」 「うん、ちょっとね」  咲の問いに、花音は神妙な顔で曖昧に答える。  それから、「どうしてここに?」と文乃に近寄りながら尋ねた。 「近くで貧血を起こして、咲さんに助けていただいたの」  文乃が咲を見つめ、ニコリと笑みを投げる。 「咲ちゃんが?」と花音も咲を振り返り、「偉いね、咲ちゃん」と満足げにうなずく。 「いえ、当然のことをしたまでです」  咲は謙遜して、両手を顔の前で振った。そんな咲を凛太郎がジーッと見つめる。 「なんですか?」  居心地の悪さに咲が眉を寄せると、「べつに」と凛太郎は不機嫌そうにそっぽを向いた。  ──あー、そうですか。  そんな凛太郎に呆れ、咲もふいっと視線を逸らす。その目の端に、花音が文乃の向かいの席に座るのが見えた。  それを潮時に、咲は店を出ることにした。服装を整え、入り口に向かおうとしたとき、「あ、咲さん」と悠太に呼び止められる。 「咲さんもお茶を飲んでいってください」とニコリと笑う。 「ありがとございます。でも……」と言いかけた咲の横を悠太は素通りし、凛太郎の座る席にティーカップを置いた。 「えっ」  咲はパチパチと目を瞬かせた。  凛太郎とのやりとりは、厨房の奥にいた花音にも聞こえていたのだから、悠太が知らないはずがない。  なのに、わざわざ同席を勧めるなんて。  チラリと凛太郎をうかがうと、不服そうな顔をしていた。  ──そうですよね。それが普通の反応ですよね。  咲はうんうんと心の中でうなずいた。  だが、悠太はニコニコと咲が座るのを待っている。 「ありがとうございます」  咲は結局断り切れず、不承不承、凛太郎の向かいの席に座った。  ──こうなったら早めに飲んで、退出するしかない。  そう思ったのに、「今、ケーキも用意しますね」との悠太の声が咲の目論見を打ち砕いた。
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