25人が本棚に入れています
本棚に追加
「お知り合いなんですか?」
「うん、ちょっとね」
咲の問いに、花音は神妙な顔で曖昧に答える。
それから、「どうしてここに?」と文乃に近寄りながら尋ねた。
「近くで貧血を起こして、咲さんに助けていただいたの」
文乃が咲を見つめ、ニコリと笑みを投げる。
「咲ちゃんが?」と花音も咲を振り返り、「偉いね、咲ちゃん」と満足げにうなずく。
「いえ、当然のことをしたまでです」
咲は謙遜して、両手を顔の前で振った。そんな咲を凛太郎がジーッと見つめる。
「なんですか?」
居心地の悪さに咲が眉を寄せると、「べつに」と凛太郎は不機嫌そうにそっぽを向いた。
──あー、そうですか。
そんな凛太郎に呆れ、咲もふいっと視線を逸らす。その目の端に、花音が文乃の向かいの席に座るのが見えた。
それを潮時に、咲は店を出ることにした。服装を整え、入り口に向かおうとしたとき、「あ、咲さん」と悠太に呼び止められる。
「咲さんもお茶を飲んでいってください」とニコリと笑う。
「ありがとございます。でも……」と言いかけた咲の横を悠太は素通りし、凛太郎の座る席にティーカップを置いた。
「えっ」
咲はパチパチと目を瞬かせた。
凛太郎とのやりとりは、厨房の奥にいた花音にも聞こえていたのだから、悠太が知らないはずがない。
なのに、わざわざ同席を勧めるなんて。
チラリと凛太郎をうかがうと、不服そうな顔をしていた。
──そうですよね。それが普通の反応ですよね。
咲はうんうんと心の中でうなずいた。
だが、悠太はニコニコと咲が座るのを待っている。
「ありがとうございます」
咲は結局断り切れず、不承不承、凛太郎の向かいの席に座った。
──こうなったら早めに飲んで、退出するしかない。
そう思ったのに、「今、ケーキも用意しますね」との悠太の声が咲の目論見を打ち砕いた。
最初のコメントを投稿しよう!