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「ねぇねぇ、凛太郎さん」
花音が立ち去るのと同時に、厨房から悠太がケーキをトレイに乗せて現れる。
「あの文乃さんって、花音さんとどういう関係なんですか?」
そのケーキをテーブルの上に給仕しながら、好奇心いっぱいの目をキラキラと輝かせ、尋ねた。
あー、と凛太郎が頭を掻いて、チラリと咲を見る。
──なによ?
咲はギロリと凛太郎を睨んだ。それに凛太郎が怯む。どうやらさっきのことが堪えているようだ。
ま、いっか、とつぶやき、凛太郎は胸の前で腕を組んだ。
「──文乃は武雄の元カノ」
「元カノ?」
悠太が驚いて目を見張る。
「えっ、なんで元カノがここに? もしかして、お腹の子のお父さんって……」
悠太があらぬことを口走る。
「お腹の子? 文乃、妊娠してるのか?」
「ええ、さっき咲さんから聞きました」
確かに、妊婦さんだからカフェインレスのもので、と言ったが、凛太郎にバラすことはないのに。
咲は、ジトッと悠太を見つめた。その視線に気づいて、悠太が誤魔化し笑いをする。
「ないない」
凛太郎が顔の前で手を払った。
「元カノっていっても、もう五年も前の話だから。それからあいつはずーっと独り身」
ずいぶんと事情に詳しいようで。咲は凛太郎を見つめた。
でも、五年も恋人を作らないってことは、まだ文乃さんのことを好きなのかもしれない。
なんだか急に胸が締め付けられたように感じた。
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