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「でも、まぁ、たまには変わり種もよく見えるのかもな」
ユラリともたれていた壁から起き上がった凛太郎は、咲と正対した。そのまま咲を挟み込むように長い両腕を伸ばし、勢いよく壁に手をついた。
──こ、これっていわゆる壁ドン?
焦る咲に、薄ら笑いを浮かべた凛太郎の顔が近づく。
咲はギュッと目を閉じ、両手を顔の前で構えた。その寸前で凛太郎が動きを止める。
「一応、気をつけたほうがいいかもね。貧乳だけどさ」
耳元で揶揄うように言い、今度はハハハッと声を上げて笑った。
──また貧乳って言った。
咲がギロリと睨みつけたとき、ポーンと一階への到着を告げる音が鳴る。
凛太郎は身体を起こすと、「じゃあ」と後ろ手に手を振り、エレベーターを降りていった。
「……なんなの、あの人」
独りごちた咲は、ドアが閉じかけたのに気がついて、慌てて外へと飛び出した。
すでに凛太郎の姿はそこにはない。
「ほんと、失礼っ」
つい安心して、咲は大声を出してしまった。
──まったく、貧乳、貧乳ってデリカシーのない。
花音は『根はいい子』と言っていたけれど、今のところ悪意しか感じられない。
凛太郎の鋭く冷たい視線を思い出し、また怒りがぶり返す。それを消し去ろうとブンブンと頭を振るがイライラはおさまらない。
「もう、腹が立つ」
咲はその場で思いっきり地団駄を踏んだのだった。
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