24人が本棚に入れています
本棚に追加
「そうですか?」
だからつい照れ臭くなって、咲はふいっと視線を逸らした。
「そうだよ。初対面の咲ちゃんは、本当に何も言ってくれなくてさ。助けてあげたいのに、手を差し伸べさせてくれないんだもの。それに比べたら、すごい進歩だよ」
あの時、そんなふうに思われていたんだ、と初対面の花音を思い返す。初めて会った自分に、そんな気遣いをしてくれていたなんて、花音さんってすごく大人だな、と感心する。
「さっきだって」と花音は意地悪な表情を浮かべた。
「凛太郎に食ってかかってたじゃない」と揶揄うように言った。
──でも、たまに意地悪言ってくるところが子供っぽいんだよね。
咲はプクッと頬を膨らませた。
「別に、食ってかかってたわけでは……」と反論しかけた咲を愉快そうに笑い飛ばす。
「あ、ここだよ」
ふいに、花音がチラリと咲を見て、告げた。
窓の外に目を向けると、川沿いに植えられた木々が目についた。まだ、どの木も枯れ木だが、枝の先端にはつぼみの丸みが見えた。
「少し、歩いてみようか」
花音はそう言って、車を近くの駐車場に止めた。駐車場前の横断歩道を渡り、遊歩道へと辿り着く。
「ここね、小さい頃、よく祖母が連れてきてくれたんだ」
桜の木を眺め、花音が言った。その顔には懐かしさが滲みでている。
「もしかしたら、胴咲きくらいは綻んでいるかも」と近くの桜の幹を眺めた。
どうでしょうね、と咲も花音に倣い、桜の幹を眺める。
最初のコメントを投稿しよう!