人はいさ……

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「そうですか?」  だからつい照れ臭くなって、咲はふいっと視線を逸らした。 「そうだよ。初対面の咲ちゃんは、本当に何も言ってくれなくてさ。助けてあげたいのに、手を差し伸べさせてくれないんだもの。それに比べたら、すごい進歩だよ」  あの時、そんなふうに思われていたんだ、と初対面の花音を思い返す。初めて会った自分に、そんな気遣いをしてくれていたなんて、花音さんってすごく大人だな、と感心する。 「さっきだって」と花音は意地悪な表情を浮かべた。 「凛太郎に食ってかかってたじゃない」と揶揄うように言った。  ──でも、たまに意地悪言ってくるところが子供っぽいんだよね。  咲はプクッと頬を膨らませた。 「別に、食ってかかってたわけでは……」と反論しかけた咲を愉快そうに笑い飛ばす。 「あ、ここだよ」  ふいに、花音がチラリと咲を見て、告げた。  窓の外に目を向けると、川沿いに植えられた木々が目についた。まだ、どの木も枯れ木だが、枝の先端にはつぼみの丸みが見えた。 「少し、歩いてみようか」  花音はそう言って、車を近くの駐車場に止めた。駐車場前の横断歩道を渡り、遊歩道へと辿り着く。 「ここね、小さい頃、よく祖母が連れてきてくれたんだ」  桜の木を眺め、花音が言った。その顔には懐かしさが滲みでている。 「もしかしたら、胴咲きくらいは綻んでいるかも」と近くの桜の幹を眺めた。  どうでしょうね、と咲も花音に倣い、桜の幹を眺める。
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