25人が本棚に入れています
本棚に追加
「お花、ですか?」
「うん。テーブルフラワーを生けてたんだ」とテーブルの上を指さす。
そこには、桜とミモザを使った春らしいアレンジメントが置かれていた。
わぁ、と咲は感嘆の声を上げた。
「すごく素敵です。春が待ち遠しくなりますね」
ささくれていた心が和らぐ。咲は頬を緩め、花音を見上げた。
ありがとう、と花音は笑顔を返す。
「生け終わって、向こうで後片付けしていたら、咲ちゃんと凛太郎の声が聞こえてきてね」
──あ、聞こえていましたか。
咲はハハッと照れ笑いを浮かべた。
「咲ちゃん、凛太郎相手によく言ってくれたね」
花音は感心しきりに咲の頭に手を乗せ、ポンポンと撫でる。
「あいつの減らず口には僕も困ってたとこなんだ」と肩をすくめ、凛太郎を一瞥した。
減らず口じゃねーし、と凛太郎が悪態をつく。
「ほんと、子供なんだから」
花音は大袈裟にため息をつき、ところで、と咲を見つめた。
「咲ちゃんはこれからお出かけ? いつもよりおめかししているみたいだけど……」
「はい。その予定だったんですけど……ちょっといろいろありまして」と女性のいる席へと目を向ける。
つられて花音が咲の視線を追う。その目が大きく見開かれた。
「……文乃さん」
花音がぽつりとつぶやいた。
「武雄くん」
女性は花音を見て嬉しそうに笑い、手を振った。
最初のコメントを投稿しよう!