元カノ

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「お花、ですか?」 「うん。テーブルフラワーを生けてたんだ」とテーブルの上を指さす。  そこには、桜とミモザを使った春らしいアレンジメントが置かれていた。  わぁ、と咲は感嘆の声を上げた。 「すごく素敵です。春が待ち遠しくなりますね」  ささくれていた心が和らぐ。咲は頬を緩め、花音を見上げた。  ありがとう、と花音は笑顔を返す。 「生け終わって、向こうで後片付けしていたら、咲ちゃんと凛太郎の声が聞こえてきてね」  ──あ、聞こえていましたか。  咲はハハッと照れ笑いを浮かべた。 「咲ちゃん、凛太郎相手によく言ってくれたね」  花音は感心しきりに咲の頭に手を乗せ、ポンポンと撫でる。 「あいつの減らず口には僕も困ってたとこなんだ」と肩をすくめ、凛太郎を一瞥した。  減らず口じゃねーし、と凛太郎が悪態をつく。 「ほんと、子供なんだから」  花音は大袈裟にため息をつき、ところで、と咲を見つめた。 「咲ちゃんはこれからお出かけ? いつもよりおめかししているみたいだけど……」 「はい。その予定だったんですけど……ちょっといろいろありまして」と女性のいる席へと目を向ける。  つられて花音が咲の視線を追う。その目が大きく見開かれた。 「……文乃(ふみの)さん」  花音がぽつりとつぶやいた。 「武雄くん」  女性は花音を見て嬉しそうに笑い、手を振った。
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