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第九十三話 ガガモンズ家の終焉⑪
別れを惜しむミュルンを優しく説き伏せたアルトレイがメルの部屋に戻る頃、ダンジョンコアから排出されたモブダーが目を覚ます。
「此処は何処だ?」
アルトレイが放った一撃により虹色の炎によって焼かれていく暴食の魔王ルゼ=バアウ=ブルバブゼの肥大化した醜い体から本能的に逃げ出したモブダーは、気付かぬ内にダンジョンコアの中に逃げ込んでいた。
その後、アルトレイによりブルバブゼが打倒され消滅するとダンジョン内の均衡が崩れ、呪いの祝詞にダンジョン全体が完全に乗っ取られてしまうのだった。
ダンジョンコアまでも侵食し尽くした呪いの祝詞は異物であるモブダーに拒否反応を示すと、モブダーはダンジョンコアの中から排出され人ではない異形の何かとして地面の上に放り出されたのである。
「な、何だ貴様らはっ! く、来るなっ」
悪霊達から見れば依り代でしかないモブダーを狙って、呪いの祝詞により有るべき場所へ還ることが出来なくなったダンジョン内の悪霊達がモブダーへ向かって一斉に襲い掛かる。
「入って来るなーっ……入って……」
まるで囲いの中で飼育されている鰻が餌団子に群がるように、悪霊達は我先とモブダーの中へ入っていき、幾重にも重なった怨念が不の感情を剥き出しにしてモブダーの許容量を超えた時、モブダーの体はその負荷に耐えられずに霧散するのだった……
翌朝、何事もなかったように目覚めたメルは、鳴き止まないお腹を押さえながら土筆と共に食堂へと向かう。
「なんかね、いつもよりお腹空いてるんだよねー」
メルは山盛りの大皿を前に尻尾を揺ら揺らさせながら手を合わせる。
土筆は何時ものことだろうとツッコミを入れるのを我慢して相槌を打つ。
「王国騎士団が到着したってさー」
「おお、漸くかー……これで依頼も終了だな」
食堂の窓から外を見ていた冒険者達が王国騎士団の到着を確認して声を上げる。
「うんうん。今日の朝ご飯も美味しいなー」
メルにとってご飯の優先順位が一番なのは変わらずで、周囲のざわつきに臆することなくフォークで刺したお肉を口の中に放り込むのだった……
朝食後、ロビーに呼び出された土筆達は冒険者ギルド職員から依頼達成書を受け取ると、その場で解散となった。
「メル、帰ろうか」
新しく発見したダンジョンへ冒険者ギルドの調査隊を案内した土筆とメルは、宿舎帰るために歩き始める。
「うんうん。帰りにお肉狩ってかないとねっ」
メルは笑顔で頷くと、土筆の元へ駆け出すのだった……
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