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第三話 南西の門
部屋を引き払う手続きを終えた土筆達は、カンジェが用意してくれた自慢のご馳走に舌鼓を打ち、これで見納めとなるであろうメルの食べっぷりを披露した。
宿屋を発つ際にはお世話になった人達へ感謝とお別れの挨拶を行い、再会の約束と固い握手を交わしたのだった。
土筆達が購入した土地へ移動するには、メゾリカの街の南側の防壁を通り抜ける必要があるのだが、街の発展に伴い必要となった施設の建設地確保の為に、開拓時建設された南正門は既に取り壊されてしまっている。
それ故、土筆達が購入した土地へ移動する為には、土地の管理用に造られた南西にある門を経由しなければならないのである。
南西にある門へ辿り着くには目抜き通りと交差している商用通りと呼ばれる大通りを南下すればいい。
商用通りは土筆達が所属する冒険者ギルドを始め、商人が所属する商業ギルドや大手商会などが建ち並んでいて、地球で例えるならオフィス街のような立ち位置である。
また、南西にある門の近くにはこの街に駐在する騎士団の寄宿舎もあり、その年に入隊した新人が南西にある門の門衛を担当する事はそれなりに知られた話である。
土筆達が南西の門に到着すると、青と白を基調とした真新しい騎士団の制服に身を包んだ二人の門衛がぎこちない仕草で視線を向ける。
土筆はモストン商会で受け取った書類を一通取り出すと門衛の一人に手渡す。
受け取った門衛は書類に目を通すと、丁寧な立ち居振る舞いで外壁の中に設置された詰所へと土筆達を案内した。
詰所は門の横に用意された通用口に隣接していて、それほど広くもない空間に門衛達の上官とおぼしき男性が椅子に腰掛け書類整理を行っていた。
上官とおぼしき男性は門衛から書類を受け取ると立ち上がり、土筆達の前まで歩み寄る。
「お話は聞いています。今後についてご説明致しますので、どうぞこちらへ」
上官とおぼしき男性は、門衛に負けず劣らぬ立ち居振る舞いで土筆達をテーブルへ誘導すると、椅子に腰掛けるように促した。
土筆達が着席するのを見届け、自らも椅子に腰を掛けると、引き出しから書類を取り出し説明を始めるのだった。
説明の内容はモストン商会から事前に聞いていた通りだった。
簡潔にまとめるなら、門の出入りについてと有事の際の対応についてである。
東、西、北の防壁にあるそれぞれの正門より見劣りはするものの、南西の門にも馬車がすれ違う事が可能な門が備え付けられている。
しかし、南西の門の先には陸の孤島と化した広いだけの荒れ地と、開拓時に拠点として使われていた宿舎とその付属設備があるだけなので、この門の需要自体が殆ど無く、常に閉門したままになっているのだ。
その為、人の出入りはもっぱら通用口を利用し、当然の事ながら土筆達も通用口を利用し街に出入りする事になる。
通用口は防壁の内側と外側にそれぞれ扉が設置されており、防壁の内側の扉は騎士団の管理の下、常に解放されているので、土筆達は防壁の外側の扉を管理する事になる。
街への出入りの際に必要になる通行料は発生せず、来訪者については今まで通り騎士団の管理で処理されるようだ。
また、有事の際は発令されたと同時に防壁の内側の扉が閉鎖される為、街中への非難はそれまでに行う必要がある。
その他、細々とした取り決めの説明が続くが、どれも事前に説明を受けていた通りなので、特に確認を要する場面もなく順調に進んで行くのだった。
「説明は以上になります」
一通りの説明を終えると、上官とおぼしき男性は外壁の外側の鍵を差し出した。
「こちらが鍵になります。もし紛失された場合、鍵の取り換え費用が全額そちら負担になりますので注意してくださいね」
土筆は軽く頷いて鍵を受け取ると、メルと共に外壁の外側へ向かうのだった。
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