はじまりのおわり

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 …私は叡智を授けられた、神からの、人類への思し召しだ。すべての理を知り、人智を超えた力を授けられた存在だ。私ほどの存在ならばすぐに理解したのだ。  私が心の底から愛したオベリオは、今、死んだ。ここにはもういない。 「エル・マーレ…懐かしいな…」  それは私が彼らに託した始めての呪文だ。その言葉に意味などない。しかし、彼らは喜んでくれた。子供が眠れないとき、嵐の前夜、嫁ぐ前の晩餐、大切な家族を失ったとき、恐怖を払いこれからの幸せを迎え入れる為に賛美歌の代わりに唱えてくれた。私への祈りと感謝を込めて何度も唱えてくれた。  その言葉を今際の際に彼は唱えてくれた。オベリオ、貴方は優しすぎる。 「神よ…私はどうすればよいのでしょうか。」  私は思わず呟いてしまった。独り言だ。私の声は風に流れていった。しかし、神は見てくれていた。懐かしい光が眼前に降り注いだ。私は光りに包まれた。優しく暖かく、何故だがオベリオに初めて触れられたことを思い出した。
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