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森の中で
薪はあちこちに吹き飛び、半分見つけた頃に、すでに息が上がっていた。日も幾分傾いていたが、俺は今日は昼飯を作らないと決めた。残り物として肉の塩漬けや胡桃かなにかが残っていたはずだし、薪が足りない今帰ったところで焚き火が起こせない。というか俺では火起こし一つできないわけだが。
手当たりしだいに見つけられそうな薪は拾い終えてしまったので、次は森に行くしない。俺は重々しい足取りで森に向かった。
この森は嫌いだ。暗いし、足元が悪いし、時折獣が襲ってくるところなんか最悪だ。最悪、お互いに死を意識して戦わなくてはならない。だからこの森に来るのは極力避けていた。あの爺が余計なことをしなければこうならなかったのに…。
足元を踏みつけるように歩いていた。森は風一つ通らず、ジメジメとして不快であった。
そもそもこんなことになったのはあいつの修行のせいで、あいつがちゃんと教えてくれればこうはならなかった。お前は後継者だとかよく分からないことを言って、そのくせ雑用ばっかり。これじゃあの頃とちっとも変わらないじゃないか。
記憶が悪い方向に潜っていく。その先には絶望の水底しかない。分かっているのに、深く深く沈んでしまった。記憶は目の前の景色を塗り替えていく。師匠に怒鳴られた炊事場、ゴミ漁りをした宿屋の裏、殴られることから逃げ出した叔父の家、母さんが死んだ寝床…。思い出したくない景色が自分の中に真っ黒な感情を呼び起こした。その感情を言葉にはできないから、代わりには口からこぼれだしたのは呪いだった。
「みんな、死ねばいいんだ」
口から溢れた。途端木々がざわついた。何かが落ちる音が聞こえた。その音の先が気になってしまった。どこかで自分でも見てはいけないと分かっていた。それなのに好奇心が茂みの向こうへと視線を送り込ませた。
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