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男の手記の続き
私は安楽椅子にもたれかかり、乱れた呼吸を整えようとした。ずいぶん呼吸するということが苦しくなってきた。神よ、もう暫し時間をいただけないだろうか。私はあと少しで伝えられると思うんだ。
己の眼前に掌を突き出せば、深々と刺り肉と同化した黒曜石が鈍く光ったと感じた。既に光を通さないこの目だが、それでも黒曜石の破片だけは暖かい光を放っていると感じた。だが、すでに儚いものだ。いつ消えてもおかしくない。間に合わないだろうか…。
そう思っていた刹那、光が僅かだが、たしかに強くなった。私は窓の外を見た。そして思わず立ち上がり身構え、テヨを唱えた。盾は私を守ったが、歪で不安定で、極めて強い力のマナの波動が稲妻のように駆け抜け、戸棚の皿にヒビを入れて消えていった。やれやれ、この程度にテヨとは、やりすぎじゃな。年は取りたくないもんだ。安楽椅子に深く腰掛けてこれからのことを思った。しかし、やっかいなもんを引き取ったもんじゃ。
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