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私と男は息を整えるために暫し無言であった。私は、今言うべき言葉を探った。これではモノリスとしての沽券に関わり、神様から与えられた使命を果たせぬ不安がある。この男に何か言い訳でもいいから追い出す口実を作らなくては…そして、私は口を開いた。
「貴様も長旅が響いて疲れたのだろう。私の側なら不届き者も早々襲ってくるまい。ここで休むがいい。」
…
……
………?
「ありがとう。」
「気にするな。」
…
……
………
“違うだろーーーーー!!!!”
私は、ひたすら混乱していた。このままではこの私の心を搔き乱す愛すべき男と二人で添い寝することになる、って何言ってるんだ!私に眠るという概念は無いんだぞ、というか愛すべき男ってなんだ、こんな汚らしいニンゲンなぞ吹き飛ばせば…?
私は聴覚機能を最高精度にして、周囲の音に意識を写した。男は、私に寄り添ったまま、安心しきったように安らかな寝息を立てていた。私のマナが溢れ返る感覚が全身に走った。必死で違うこと(例えば昔の帝国が来たときのこととか、犬に小便をかけられたときの事とか)を考えて、意識を飛ばそうとしたがマナは次々に昇天するように空へと霧散した。自分自身が黒曜石とは思えない体温上昇をしていることに、感覚器官より警報が出ていた。だがその警報を無視して、私は視覚機能に感覚集中した。
“かわいい寝顔。がんばってきたんだね。”
ここで、やっと我に返った。私はこれまでの自分の思考ルートを辿り直して、発光が増した。もはや淡い桃色を過ぎて朝焼けを凌駕する真紅の色だった。これは怒りから湧き上がるものではない。つまり…
「わたし、恋しているのか…?」
私のつぶやきに呼応するように、男は私に抱きつくようにすり寄ってきた。
“ちょっと私達まだ出会ったばかりでしょ、それなのにこんなのって、もう変態!!”
危うくライトニングボルトが出そうになった自分を抑えて、私は鼓動の高鳴りを素直に認めることとした。
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