その日

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「俺たちの里は帝都からの迫害を逃れた人々によってつくられた隠里だ。普段は田畑を耕し、僅かばかりの家畜とともに暮らす貧しい村だ。それでも音楽もあれば、村の祭りもある。時折気心の知れた隊商が遊びにきて、世界のことも教えてくれた。みな村のために生きて、村の中で新しい命をはぐくむ。思えば幸せな場所だった。しかし…」  オベリオはここで初めて表情を崩した。その顔色には後悔が浮かび上がった。 「俺は世界が見てみたかった。羊飼いの俺が街を見ることはこのまま無いと思ったら、勿体ないと思ってしまった。だから隊商たちに頼み込み、俺も同行させてもらったんだ。街にはきっと新しい発見があるだろう。と。街にはいろいろなものがあって、俺は毎日興奮したよ。村では知りえなかったような悪い味も覚えた。それでもある日、街では星がちゃんと見えないことに気づいてから、俺は村に帰られなくてはと思った。羊飼いが星も見えなくなったらおしまいだ、そう思って、今度は隊商の親方に謝って山を登り続けた。村に帰ったら、この見聞きしたことを伝えよう、妹への土産に髪飾りも買って、意気揚々と帰った。そしたら程なくして、村中の人々が苦しみだした。お婆が言うには、俺が村に疫病を持ち込んでしまったんだ。俺のワガママでみんなが死ぬのなんてまっぴらごめんだ。だからあなたの存在を教えてもらい、居ても立ってもいられなくなり、探し続けたんだ。」  彼はそこまで口にして、思い出したように黙り込んでしまった。  後悔と、責任感か。なるほどこの男の魂胆は分かった。そして分かったうえで私に命を差し出す覚悟はあるというのか。 「なるほど、貴様の真意は理解した。だがモノリスのことを真に理解しているとは、果たして言えるかな。」 「何をすればいい…?」  覚悟に満ちたオベリオの瞳は美しく、私はじっと見つめてしまうが、しかし、そのおかげでちょうどよい間が生まれた。  私は高らかに宣言すした。 「…第三十七回!モノリス攻略カルトクイズ!!」
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