その日

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「モノリスよ、まだ、やらねば、いけないか?」  息を整えながらオベリオは質問してきた。その質問によって、気づけば日は西に向かって進みだしているほど、時が経っていることに気づいた。自分のことで精一杯になっていた。 「す、すまなかった。次が最後だ。」  私は慌てて弁明しながら、その一方で噛みしめるように、今までよりも一歩一歩踏み込むように読み込んだ。 「人類は、時に迷い、己が進むはずの道を見失うことがある。道とは未知のものだ。叡智の私とて、未来は刻まれてないため分からない。しかし我が民には古にある「呪文」を伝えた。それは愛の言葉であり、勇気の「叫び」であり、弱き自分を殺す「呪い」であり、明日への恐怖を掻き消す「慟哭」でもあった。我の知恵を求めるものなら、私との約束に応えるため、この言葉を理解しているはずだ。さあ、応えよ。」  オベリオは固まった。しかしそれは焦りや不安の足掻きではないと伝わった。呼吸を整え、しばし息を止めてから、彼は大きく深呼吸した。それに呼応するようにマナが湧き上がり、燃え上がるように体温が上昇していた。炎が湧き上がる。瞳に宿る。 「ココ アガム トー テン」  彼のその呪文によって、あたりにマナの風が吹き荒れた。荒地であるにもかかわらず、辺りには小さな植物が芽吹いた。彼の瞳が赤く輝いていた。  私が彼に惹かれた理由が分かった。  彼は私の昔の家族たち、アルザの民の末裔だったのか…。緋色の目は時を経た約束を無言で叶えてくれた。では私も道理を通さねばならない。覚悟を決めて、私は音声を発した。
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