シェアハウス

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「あらためまして、出戻りました綾菜(あやな)です。翔太(しょうた)と一緒にお世話になります」 「はいはい、よろしくね」 「賑やかになるな」 「あの、ちゃんと仕事して、家賃や光熱費は払うから」 「軌道に乗るまではいいよ」 「もうすぐ翔太(しょうた)も保育園に入れることになったし、頑張るから、そしたらね」 「わかった、ちゃんともらうよ」 ここは不思議な家だと思った。 離婚した両親と出戻りの子持ちの娘。 でも、お義父さんもお母さんも、それぞれ自立して生活してるし、私もできるだけ甘えないで生活したい。 仕事も少しずつ増やして、いつかはレセプタントのエキスパートになる、それが今の夢。 それから1か月後。 健二(けんじ)が養育費を持ってきた。 「久しぶり、元気そうだね?」 「うん、私は元気よ、翔太(しょうた)も元気。ね、翔太(しょうた)?」 「さて、じゃあ行こうか?」 「うん、行ってらっしゃい」 「あ、あのさ、綾菜(あやな)も行こうよ」 「え?あの子に悪いでしょ?」 「いや、いいんだ、もういないから」 「え?」 「結婚は無理だって、二週間もしないうちに出て行ったよ」 あははとひきつった笑い方。 「ぷっ!あんなに健二(けんじ)と結婚したがってたのに?」 「うん、いざ結婚になったらダメだった、情けないよな」 「おとうちゃん、はやくいこ、どうぶつえん」 「お、行くぞ、おかあちゃんも誘ってるんだけどな」 「え?おかあちゃんもいけるの?」 「ん?…」 「離婚してても一緒に出かけていいだろ?行こう、翔太(しょうた)もその方がいいよ」 「わかった、ちょっと着替えてくる」 変なの、変なの、変なの。 離婚して、子どもに会いにきた元夫と3人で出かけるなんて。 「さぁ、行こうか?」 「わぁーいわぁーい、おとうちゃんとおかあちゃんとどうぶつえんだ、わーい」 真ん中で翔太(しょうた)が、私と健二(けんじ)の腕に捕まって飛び跳ねている。 本当にうれしそうだ。 どこから見ても離婚した元夫婦には見えないだろうな。 それにしても。 「ね、新しい彼女は?」 「あー、当分見つからなそう」 「今なら自由なのにね」 「なんかね、離婚したとたん、モテなくなっちゃったよ、なんでだろうね」 「知らんわ」 たくさんの家族連れで賑わう動物園。 みんな幸せそうに見えるけど、本当に幸せな家族はどれくらいいるのかと思う。 私たちは、なんでこうなってしまったのかわからないけど。 ぴろろろろろろろ🎶 私のスマホが鳴った。 「はい、そうです。え、次の日曜日ですか?えっと、すみません、ちょっと待ってください」 スマホを保留にして健二(けんじ)に聞く。 「あのさぁ、次の日曜日の午後、翔太(しょうた)を見てくれない?何か用事ある?」 「いや、ないよ、仕事?」 「うん、そう、来れなくなった人がいてピンチヒッターなんだけど」 「いいよ、ちゃんと予定しておくから」 「ありがとう」 「あ、お待たせしました、はい、大丈夫です。よろしくお願いします」 なんのわだかまりもなく、健二(けんじ)翔太(しょうた)のことをお願いした自分に驚いた。 これじゃ、離婚した意味ないじゃん?なんて思った。 「今日が楽しいからいいか!」 思わず声に出た。 「え?何のこと?」 「ううん、なんでもない」 こんな家族もあり!としとこう。 これが私の家族なんだから。 離婚してるけど…ね。 ーーーおしまいーーー
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