504人が本棚に入れています
本棚に追加
バレる嘘
「少し前に、青木さんが怪我していることに気づいて、それがDVなんだとわかった。それから、なんとかご主人に暴力をやめてもらうことはできないか?とあれこれ考えた。でも、無理だったらしくて…」
そこで一旦、言葉をきる。
佳苗はまだ下を向いている。
「それで、これはもう証拠を残して警察に訴えるしかないと思って、病院に行って診断書を書いてもらって怪我の写真も撮ってもらおうと思って、昨日、それをするつもりで青木さんと会った。でも、病院はどうしてもイヤだと言って。ならば証拠写真だけでもと、その、写真のホテルに…」
もごもごと声が小さくなる。
「は?これ、昨日の写真なの?」
「そう…そんなふうに加工されててびっくりしたけど」
「てかよ!裸になってるじゃん、お前!やることやったんだろ?それも昨日が初めてじゃないんだろ?」
「してない、裸になったのは、その…」
また声が小さくなる。
仕方ない、私も話に入るか。
「無理矢理脱がされたんでしょ?そして、抱いてくださいとかなんとか言われて。そうしないと写真をみんなに見せますよとか脅されて…」
いきなり話に入った私をみんなが見る。
かまわず続ける。
「でも、できなかった、でしょ?」
そこで佳苗が顔を上げた。
「き、昨日はできなかったけど、そのまえはちゃんとできて、だから、私妊娠して…」
声を張り上げる。
「それで、それをネタに店長を奥さんと別れさせようと思ったの?下調べもして」
聡美が言う。
「えっ!」
「少し前にさ、うちを見張ってたよね?」
「あ、あの…」
「私のことを確認してたんでしょ?青木さんよりずっと年上だし、子どももいないから、店長を横取りできると思った?でもあれはストーカーみたいでいただけないわ」
「私、そんなことしてません!本当に店長のことが好きで店長も私のことを好きだと言ってくれてだから、奥様に会って話そうと決めてたんです。お願いです、奥様、店長と別れてください」
佳苗は頭を下げる、聡美に向かって。
「…だってよ、冬美さん、どうする?店長と別れるの?」
聡美が、やれやれと私を見た。
佳苗は意味がわからず、私と聡美を見比べていた。
「別れないわよ、浮気も妊娠も嘘なんでしょ?そのご主人から逃げたくてうちの夫を利用しただけだよね?」
「え?うちの?え?」
私は免許証を出して見せた。
[坂下冬美]
聡美も免許証を出して見せた。
[東野聡美]
「わかった?青木さん。あなたが見張っていたのは、私のフリをしてくれていた私の友人なの。入れ替わってたのはあの日だけ。だから、あなたが聡美ちゃんを店長の奥さんだと思い込んでいたの。張り込みまでして、相当な準備ね」
最初のコメントを投稿しよう!