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幸せ?
「おはよう、ママ、朝ごはんできたよ」
トーストの焼ける匂いとコーヒーのコポコポという音と共に私を起こす旦那の声。
朝だ、起きなきゃ。
「おはよう!あのさぁ、ママって呼ぶのはどうなの?私、あんたのママじゃないんだから」
「えー、もうこれで何年もきてるから、いまさら変えるのも…」
私のエプロンをして、コーヒーをマグカップに注いでくれるのは旦那の邦夫。
朝に弱い私に変わって、もう何年も朝ごはんの用意をしてくれてる。
「はぁー、美味しい♪コーヒーの銘柄変えた?」
「うん、よくわかったね!今日からキリマンジャロにしてみた」
「で、ママはやめようよ、もう子どももうちにはいないんだし」
長男の侑斗は、高校卒業後、自動車部品の会社に就職して独身寮に住んでいる。
車で1時間くらいのところで、月に何度かは帰ってくるけど。
「侑斗だって、中学からはママなんて呼んでないからね」
「あれ?そうだった?なんて呼んでた?ママのこと」
「だから、ママって言うな!」
おい、とか、ねぇ、とか呼ばれてて成人したくらいからは、母さんだ。
「あ、そうだ!これ」
邦夫が紙袋を出してきた。
「え?なに」
コーヒーを飲みながら受け取る。
花柄のショッピングバッグに入っていたのは、レースのブラとショーツの3セットだった。
「あー、また?」
「うん、昨日洗濯してたら洋子の下着がくたびれてきてたから。なかなか可愛いでしょ?」
可愛いかどうかよりも。
「あのさ、できれば、こう…肌触りのいいのがうれしいんだけど。オーガニックコットンとかの」
「えー、気に入らなかった?」
「ううん、可愛いから気に入った。でも仕事の時は、コットンがいいかな」
「わかった、次はそうするね、綿100%で可愛いの、見つけなきゃ」
まるで自分の下着のことのように、きゃぴってる邦夫を見ながら思った。
どんな顔をして私の下着を買いに行ってるんだろ?と。
「掃除はしてあるから、食器だけ片付けておいて。僕はもう仕事に行かなきゃ!」
「ほーい、行ってらっしゃい」
コーヒーを持ってリビングに移動し、朝のワイドショーを少しだけ見る。
特集は、熟年離婚だった。
定年退職したら陥りやすいという、[夫源病]の話。
うちは大丈夫かな?
家事のほとんどをやってくれるし、よそのお宅から見ればきっと、幸せな方だろう。
🎶🎶🎶
スマホのアラームが鳴った。
準備して出勤しなきゃ。
片付けは帰ってきてからにしよっと。
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