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夫の職場
「ここって、お魚も新鮮だし、お肉も美味しそうなんだよね?今日はお肉にしようかな?」
聡美は次々とカートへ食材を入れていく。
聡美以外は全員男だから、食費が半端ないと嘆いていた。
「冬美さんちは今日はなに?お肉?あ、それも高そうなやつじゃん!誕生日とか?」
「まぁ、そんなとこ」
売り場をまわっていたら、昨日のチーフがいた。
「いらっしゃいませ!あ、昨日の!」
「はい、また来てしまいました。あの…」
「あ、パート募集の件ですよね?まだ店長に話ができてないんですけど、今日はいるので呼んでみますね」
そう言うと振り返って別の店員に話しかけていた。
「ね、青木さん、店長どこにいるかな?」
「店長、ですか?」
「そう、こちらのお客様がちょっとお話があるらしくて…」
青木と呼ばれた店員が、私達を見た、いや、違う、聡美を見た。
そして、持っていたラベラーを落としてしまった。
「ちょっ!青木さん、何やってるの?それ壊れちゃったんじゃない?あーあ、もうっ!」
落としたハンディタイプのラベラーが、床でバラバラに散らばってしまった。
青木さんと呼ばれたその女性は、そのまま慌てて走り去ってしまった。
「もうっ!青木さんたらっ!
どうしちゃったんだろ?どうも申し訳ありません。すぐ店長を呼んできますので」
チーフはラベラーを拾い集めると、そそくさと消えていった。
「…見た?」
「見た…」
「あれってさ…」
「うん、もしかしたら…」
「だよね?」
「証拠はないけどね」
「店長に用事があると呼び出したのが、店長の奥さんだと思ったのかな?」
「そうだと思う」
「そして私を店長の奥さんだと思ってるんだよね、私を見てたし、あの慌てようは…」
「ということは、あの人が銀子?」
「そして、昨日の相手?」
「…かもしれない」
「どうする?」
「どうしようか…」
小声で話していたら、チーフが戻ってきた。
「お待たせしました、今電話中でしたので、電話が終わり次第店長はこちらにきますので」
「わざわざありがとうございます。あ、ねぇ、さっき走り去った人って?」
「あ、青木ですか?失礼な態度をとってしまい申し訳ありません。注意しておきますので」
深々と頭を下げるチーフ。
「いえ、いいんですよ、ちょっと知り合いに似てたので。マスクしてたからハッキリと分からなくて…、そうそう青木さんだった。名前は確か…」
「佳苗です。うちのアルバイトで、3ヶ月目くらいだったかな?」
「あ、そうそう!かなえ、そんな名前だった。ここでアルバイトしてたんだ、そっか。あれ?でも昨日は見かけなかったような?」
「はい、昨日はお休みしてました」
聡美も私も、チーフの言葉を聞き逃さなかった。
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