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「あっ!」
夫がふりほどかれて飛ばされていた。
それでもまだ足りないのか、男は夫の上着をつかんで殴ろうとしたその時、グシャっと何かが男に飛んできた。
「あいたっ!」
またグシャッ、グシャッと男の顔に何かが当たる。
振り返ると、聡美が卵を投げつけていた。
顔と頭とを卵だらけにして、こちらを振り返る男。
「こんなとこで暴力をふるうなんて、最低!あんた何様なの?」
「うっせーなおばさん、黙れ」
「黙らないわよ、他の人の迷惑でしょ?」
「あ…」
佳苗は、卵を飛ばしたのが聡美だと気づいたようだ。
「佳苗!こいつに言うことがあるだろ?!言ってやれ!早く!」
「あ、あの…」
男は、佳苗に何かをけしかけている、店長に向かって言うことがあるだろと。
「お前が言えないなら、俺が言ってやる!おい、店長とやら、うちの嫁に手ぇ出して、妊娠させただろ!あ?身に覚えがないとは言わせないぞ」
「は?」
あまりのことに、私が話に入ろうとしたら聡美に止められた。
私はそのまま下がっている。
「ちょっと、あなた、どういうこと?そんな嘘ついて慰謝料でも巻き上げようって魂胆なの?」
代わりに聡美が話をする。
「奥様、申し訳ありません。でも、私のお腹の中には店長の子どもが…」
「ホントに?嘘じゃないの?」
「嘘じゃないです、店長もわかってくれてそして子どもを産んでほしいと言われました。だから…」
佳苗は、あきらかに聡美を店長の奥さんだと思い込んで話している。
間違いない、銀子だ。
あの日、我が家を見張ってて、聡美を私と思い込んだのだろう。
「だから、なに?」
「お願いです、店長と別れてください」
「は?」
「え?」
「俺には慰謝料払ってもらうからな。慰謝料がないと離婚はしないぞ」
夫、聡美、そして私が、いきなりの言いがかりに呆気にとられているところへ、チーフが近づいてきた。
「もうすぐ、警察が来ますので、こちらへ」
「えっ!警察?」
警察と聞いてさすがに大人しくなった正和。
男と夫、佳苗、聡美、私、それからチーフで、事務所に向かう。
「申し訳ありません、お客様、いま片付けますのでしばらくお待ち下さいませ」
チーフは頭を下げる。
「あ、すぐ片付けてね、お願いね」
片付けをそこにいた他の店員さんに頼むことも忘れなかった。
「ね、警察呼んじゃったの?」
「呼んだフリです」
「あ、なーるほど」
チーフと聡美が小声で話しているのが聞こえた。
それにしても、佳苗が妊娠したなんて…。
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