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嘘?
事務室に入り、それぞれが腰掛ける。
私は、ことの成り行きを少し離れて見ていることにした。
さっきここに入る時、聡美が任せといてと言ったから。
「まず、確認したいのは青木佳苗さんと坂下亮一が不倫をして子どもができた、ということね?」
聡美が口火を切った。
「…はい」
「亮一さんは?」
「そんなはずはない、間違いだよ」
「この人と浮気をしたことは?」
「ないよ、ない!」
「お前、まだシラを切るのかよ!こっちは証拠の写真もあるんだぞ!おい、出してみろ佳苗!」
そう言われて、ポケットからスマホをとりだした佳苗。
そのスマホ画面には薄暗い部屋のベッドで写る夫の姿があった。
「あっ!それは…」
その写真は加工されていて、ぼわっとぼかしてハートを散らしてご丁寧に、LOVEの赤い文字まで添えてある。
「な、なんでこんな…!」
慌てる夫。
その写真には覚えがあるらしい。
「これは立派な浮気、不貞の証拠だよな?ひどい男だよな、職場の女、それもよその嫁に手を出すなんて。そして妊娠させといて、知らんぷりするのか?」
さっきまでとは違い、いくらか落ち着いた様子で話す正和。
佳苗はスマホをテーブルに置いたままじっと俯いている。
「まぁな、そんなにうちの佳苗がほしけりゃくれてやるよ、でもな、こっちにも慰謝料を払ってもらうぞ、精神的なダメージが大きいんでね」
「青木さん、話が違うよね?昨日ちゃんと話したよね?ご主人にきちんと話すって。それがどうしてこんなことに?」
「だ、か、ら!ちゃんと話したわけだ、好きな男がいる、子どももできたから別れてほしいってな」
「ちょっと待って!店長、昨日、佳苗さんと何を話したんですか?お2人で時間をとって、何か話されたんですよね?」
話に割って入ったのはチーフ。
「う、うん、でも浮気とか…そんなんじゃない」
「もしかして、このことですか?ちょっと、見せて!」
チーフは佳苗の左腕のカーディガンの袖をまくった。
そこには手首に巻かれた包帯と、アザがいくつかあった。
「うわ…」
思わず声を上げたのは、私と聡美。
「やめてください!」
「やめない!もっとあるよね?だからこんなに暑い時期でもそんなふうに上着を脱がないんだよね?それって、そこにいるご主人からのDVなんでしょ?」
チーフの言葉にみんなが正和の方を見る。
「なっ、なんだよ、そんなの今関係ないだろ?浮気の方が問題だろうよ」
「ね、店長、もう全部話してください、奥様もいらっしゃるんですから」
「そうよ、話して!」
奥様のフリをしてる聡美も言った。
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