第1章 青天の霹靂

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 彼女はその輪から抜け出そうとしたとき、男の振った手が彼女の伊達メガネを払い飛ばした。伊達メガネは宙に舞い、地面に落下した瞬間、スーツの女に踏みつぶされた。  ああ、なんということだ。一週間前に買ったばかりの伊達メガネ。レンズは割れ、フレームはひん曲がり、もはや、それは眼鏡と呼べるような代物ではなくなった。  スーツの女は手錠を取り出し、組み伏せた男にはめた。自由を奪われた男は最初のうちは足や体をバタつかせたが、やがて観念しておとなしくなった。  スーツの女は無線機を取り出し、パトカーを回すように要請した。  彼女は荒い呼吸を繰り返しながら、目の前の正義のヒロインに気づいて、思わず何度も頭を下げた。 「ストーカーにつきまとわれていたのは本当だったのね」  女性刑事はコトリの前にお茶を差し出した。  コトリは一礼する。 「あのストーカー男にはうんと、お灸を据えておいたから、しばらくは大手を振って歩けるわよ」 「本当にありがとうございます。わたし、本当にどうしていいか、わからなくて...」 わたしこと、小鳥遊明穂がストーカーにつきまとわれているから助けてほしいと相談に訪れたのは一週間前のこと。  応対に出たのは、やる気のなさそうな男の警官で、この手の相談はしょっちゅうあるためか、コトリの相談にも適当に相槌を打ち、適当に書類を作成していた。  何かあったら、また相談に来てくださいと言って、コトリを追い払おうとしたので、コトリは何かあってからじゃ遅いですと訴えた。  警察はいろいろ忙しいので、あなたのような案件に構っている暇はないんだと言った。  お役所仕事もたいがいにしろと、コトリは言い返した。やれやれ、あんたみたいな感情的な人に限ってストーカーされてると勘違いするんだなあと、負けじに言い返す。挙げ句に女は感情的になるから困ると加えた。ここまで来ると女性蔑視、警官の前に人間失格である。
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