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第1章 青天の霹靂
夜の住宅街を一人のOLが歩いている。先ほどから背後に誰かの気配を感じる。猫一匹通らない路地では、響くのはOLのハイヒールを打つ音だけのはずだ。なのに、その音に交じって重い靴音がする。
彼女は音楽プレーヤーやスマホでイヤホンをして音楽を聴く習性はなかった。だから、耳は常に何らかの音を聞ける状態だった。
彼女は更に速度をあげた。やはりハイヒールとは別の音が聞こえる。
後ろを振り返ってみるが、人影はない。気のせいなのだろうか。神経過敏になっている自分が急に恥ずかしくなる。
以前、テレビで、後ろから不審者が近づいていると思った場合、逃げてはならない。スマホなどを耳にあてて、誰かと通話しているふりをした方がいいと聞いたことがあった。
初歩的な防衛策だが、知らないよりはいい。彼女はハンドバッグからスマホを取り出し、スマホを耳にあて、会話をしているふりをしてみた。
通話相手がいない状態で話をするというのも、難しいものだ。そうなのだ。ここで彼女は早く自身の失敗に気づくべきだったのだ。会話をうまくやろうとして、スマホに神経を集中しすぎたため、歩く速度が遅くなったのだ。
それは不審者にとってはラッキーだった。ライオンが手負いの小鹿を仕留めにかかる状態に似ていた。
彼女はその足音がすぐ近くにあることに気づくのに、一瞬だけ遅れ、駆け出そうとしたときには肩を掴まれていた。
すごい力だ。彼女は掴まれた反動で後ろに仰け反りそうになった。
そのとき、路地から一人のスーツ姿の女性が現れ、彼女と不審者の間に割り込んだ。
彼女はスーツの女と不審者の間に挟まれ、身動きがとれない状況。男はスーツ姿の女に襟首を掴まれ、網にかかった獲物のようだった。
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