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河川敷
夜の河川敷に佇むと、涙が頬を伝う。風が緩やかに吹き抜けると、優しく拭ってくれるようだった。
自分の左手に光る指輪を見つめた。愛されている確信は、この指輪があったから。私は指輪をそっと外した。
誕生日にピンクトルマリンの指輪をくれて、左手の薬指に嵌めてくれた。
いつかは婚約指輪を渡したいからと、彼は恥ずかしそうに言って、プレゼントをしてくれた。
「それまで、左手の薬指にしてくれない?」
「うん…。ありがとう。大切にするね。」
貴志の想いが嬉しくて、大切にしたいと思った。大切に育もう、彼との関係を。
いつの日か、貴志と結婚をして幸せになる日を夢見て。
合コンに行ったくらいって、言われるかもしれない。けれど、私には理解が出来ない。
私が合コンに行ったら嫌だろうし、自分がされたく無い事は絶対にしない。そう思っていたのは、私だけだったんだと絶望した。
彼との関係を白紙に戻そう。これまで私が気づかないだけで、何度も合コンをしていたのかもしれない。
私の前では物静かな彼が、あんな陽気にしているのを初めて見た。
(あんな一面があるとは、思わなかった。)
外した指輪を見つめた。指輪を彼に返そうと考えたが、返す時に彼に会わなければならない。
そんな事さえ、嫌だった。
「貰った物なんだから、どうしたって私の勝手よね。」
指輪を右手でぎゅっと握り、河川敷の覆い茂る草むらに向かって投げ捨てた。
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