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探し物はなんですか?
それから1週間は、何にも考えたくなかった。
恋人と別れて泣いている女なんて、周囲に思われたくなかったから虚勢を張った。結局、あれこれと思い悩む自分に嫌気がさす。
友人は、あれからどうしたのかと聞いてきた。友人には未だ話す気にはなれず、言いたくないと言った。私に寄り添ってもらっても、壊れてしまった関係は元に戻らないから。友人は話したくなったら、連絡をするよう約束させられた。私は友人の思いやりに胸を打たれ、そして自分はなんと我儘なんだろう。
左手の薬指は、あの指輪を探して彷徨っているようだった。左手を見る度に、涙が溢れてくる。怒りにまかせて、捨てなければよかった。
あの時、貴志に貰った指輪と真心は、真実だったはずだから。今更ながら、後悔の念に苛まれた。
あれ以来、貴志からの連絡が無い。
引き止めてくれるかもと、たかを括っていた自分の考えの甘さを痛感する。
見た事のない陽気な彼が、また脳裏を掠めて絶望する。
色々な事を考えたくないのに、想いは貴志に傾くばかりだった。こんなに未練があったなんて、思いも寄らなかった。
穏やかな貴志が好きだ。
波風を立てず、身丈に合った地位でいいと言う貴志が好きだ。
物腰が柔らかく、静かに喋る貴志が大好き。
「探そう。」
そう呟くと私は、夕方の河川敷に向かって走り出した。
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