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暗がりで彼が必死で探す姿に、嬉しくなってきていた。指輪を投げ捨てた自分を棚に上げて。
私との結婚を考えて、出世するにはどうしたらいいのかを考えたんだろう。飲みたくもないお酒を飲んで、取引先との関係をより良好なものにすれば自分の評価へと繋がるかもと。
当然、そんな事で出世なんてしたら楽に決まってる。
「バカねぇ。私は貴志に出世して欲しいなんて、思った事ないわ。2人で慎ましく生活出来れば、それでいいじゃない。」
私の言葉を受けたかのように、おもむろに彼がゆっくり立ち上がった。携帯電話をポケットに入れて、軍手を脱いだ。
「やっと見つけた。この1週間ずっと河川敷に来て探してた。どこに捨てたかも、わからなかったし。
おそらく桜の自宅近くの河川敷だろうと、思ってはいたけど広くて…。」
汚くなった指輪を、ポケットから出したハンカチで丁寧に拭ってくれた。貴志は私の左手に指輪を、そっと嵌めた。やはり、彼はずっと探してくれていたのだ。申し訳ないと思うと同時に、嬉しくて涙が止まらなくなった。
「私、指輪を捨てた事を後悔してたの。探して見つからなければ、どうしようかと思ってた。」
「俺は、桜に別れてと言われて後悔した。
もしかしたら、指輪を探して見つかれば、考え直してくれるかもしれないって…。」
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