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さらわれた純平
その晩早めの夕食を済ませバイクで備正淳の家に向かった。
夕暮れの道路は、通勤ラッシュで混雑していた。
備の自宅駐車場にバイクを止めると近くに乗用車が止まる。
その時には、つけられていた事に気が付かなかった。
備の自宅に入るとトレーニングルームに通された。
「さあ、入って」
ドアを開けるとそこは、トレーニングジムのような本格的な機材が並んでいる。
「すごい設備ですね」
「ああ、実を言うとこんな事もあろうかと機材をそろえていたんだよ」
「準備がいいんですね」
「それより君、バイクスーツ似合うね」
私の黒いバイクスーツは、もともとネットで買ったコスプレ用のなんちゃってスーツだった。
「これ、本当は、コスプレ用で転んだりしたらすぐ破れちゃうんです」
「そうなの? コスプレ用ね、どうりで・・・」
と、まじまじと眺める。
「やめてください! ジロジロ見るの」
「まあ、いいや、トレーニングウエア用意してあるから着替えて」
着替えた私は、備からトレーニングを受ける。
準備体操から始まりバイクやランニングとほとんど休み無くトレーニングが続く。
まだ30分位しか経ってないのに汗がふきだす。
「先生、ちょっと休憩を・・・」もう、限界だった。
「ああ、少し休憩をしよう」
長椅子に腰かけタオルで汗を拭きながら今日、来た刑事の事を話す。
「先生、今日、私の所に刑事が来たんです」
「ああ、私の所にも来たよ。渋谷って刑事さん」
「直人が逃げたって。で、キムの事を聞かれて・・・」
「で、話したの?」
「話せません。だって私の過去を知られたら困るでしょ」
「そうか、そうだよね。でも、警察も感づき始めているようだ。君のバイクつけてきたのは、警察だよ」
「え、私、警察から監視されているんですか?」
「ああ、でもこれでキム達も安易に近づけなくなっている」
「なるほど、じゃあ暫くは、安全ですね」
「でも、油断しない方がいい。やつら何をしてくるかわからない」
それから備の格闘技の基礎を教わる。
それは、過酷なものだった。
前に通っていたトレーニングジムでパンチの防御は、知っていた。
でも体の小さい私では、体格的に防御が弱いので攻撃を主体として訓練が行われた。
蹴りや体を回転させながらの回し蹴り。
勢いをつけて加速しながらの飛び蹴り。
こんな訓練を繰り返し10日ほど過ぎた日の事だった。
備からの攻撃を躱し倒せるほどに実力が増していた。
防具を付けた備に強烈なキックをみまわせる。
壁まで吹っ飛ぶ備の体。
私は、立ち上がれない備の手を取る。
「すごいね! 短期間で良くここまで習得した」
「先生のおかげです」
と、その時にスマホの呼び出し音がする。
時刻は、午後10時を回っていた。
ベンチに置いてあるスマホを見ると純平からだった。
「もしもし、純平」
『ふふ・・・春菜か。俺は、純平じゃない』
聞き覚えのある低音の声。
「お前、キムなの? どうして・・・」
『純平は、俺が預かっている。返してほしければ今から晴海埠頭まで来い』
「え? 何言ってるの。純平をさらったの?」
『ああ、お前の大事な彼氏を失いたくなければ一人で来い、30分以内に来なければ純平は、殺す』
と、電話が切れる。
「もしもし、もしもし・・・」
掛けなおすが繋がらない。
電話を手に呆然とする私。
「どうした! キムからなのか?」
「純平をさらったって、30分以内に来ないと殺すって」
「大変だ! で、どこに来いって言ってるの」
「晴海埠頭」
「晴海埠頭ってバイクで急いでも30分かかる」
「私、すぐ行きます」
「私も一緒に行こう」
「ダメです。一人で来いって。先生ついてくると殺されちゃう」
「わかった。ちょっと待て!」
と、焦っている私に黒い服を手渡す備。
「これ、防弾スーツ。特殊繊維で弾丸を通さない。君の為に作っておいた。これ着て行きな」
「ありがとう」
手渡されたスーツは、黒の本格的なライダースーツだった。
備の前で着替える私。
気を使って向こうを向いてくれている。
防弾スーツなのに軽くてフィットしていた。
「ピッタリです、ありがとう」
「ああ、大丈夫か? 一人で」
「大丈夫です。私、不死身だし。心配しないで待っていてください」
「がんばれ! 今の君なら絶対あいつに勝てる」
急いでバイクに乗り走らせる。
深夜の道路は、車の通りも少ない。
ふと、バックミラーを見ると覆面パトカーらしき車が尾行している。
湾岸線に入ると前を走るトラックが並走していて進路を塞いでいた。
「今がチャンスだ!」
並走するトラックの隙間を縫って前に出る。
慌てた覆面パトカーが赤色灯を出しサイレンを鳴らすがトラック阻まれついてこれない。
フルスロットで一気にスピードを上げて引き離す。
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