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無事退院した春菜。
翌日、いつものように彩芽と学校へ向かう。
「ねえ、春菜。本当に体何ともないの?」
「うん、ぜんぜん何ともない。かすり傷一つ無いし」
「うっそー、だってあんた車の下敷きよ。私、怖くて引き出されるまで見なかったけど」
「なんだ、結局見てないんじゃん」
「だって、怖いじゃん。トラックの下敷きで血だらけとか・・・」
「まあね、私、気を失ってたから何にもわからないけど」
と、昨日の交差点で信号待ちする。
「ここよね、事故現場」
「そうね・・・」
その時、春菜の横に並ぶ男子。
「よお! 昨日は、ありがとね春菜さん」
見ると竜崎純平がニコニコしながら春菜を見ている。
「ああ、純平くん。体大丈夫?」
「おかげさまで何ともない」
「よかったね。何ともなくて」
信号が青に変わり歩き始める3人。
「ねえ、春菜ちゃん。ニュース見た?」純平が聞いてくる。
「うん・・・見た。何だか大げさに報道してたね。恥ずかしいわ」
「でも、すごいと思うよ。普通あの場面で助けに飛び込むって。俺、あんときもう死ぬって覚悟したもんね」
「やっぱすごいわ春菜。私だってもうだめだと思ったわ。人命救助よ。絶対表彰もんじゃん」と彩芽が言う。
「へ? 表彰なんていらねーし」
照れている春菜。
「ところで純平くんは、今日は、バイクじゃないの?」
「無理でしょ。バイクめちゃくちゃ壊れてるし。修理に1ヶ月かかるって」
「まあ、バイクだけで済んでよかったわね」
「不幸中の幸いだね」
登校し教室へ入ると雑談していた生徒達が一斉に春菜を見る。
ぎょっとする春菜。
なんだ? どうして私を見てるのよ?
少しおどおどしながら席に向かう。
すると普段話もした事が無い霧島雄二が声をかけてくる。
「よう、春菜。お前、車に跳ねられた竜崎を助けたんだって? すげーな」
席に着く。
「ああ、ニュースで見たのね」
朝のニュースを思い出す。
回想:
テレビでニュースに流れるドライブレコーダーの動画には、跳ねられた竜崎純平を引きずる私が写っていた。そして私だけトラックの下に吸い込まれてゆくように写ってる。
アナウンサーは、私が奇跡的に軽症で済んだとアナウンスしている。
「スゲーじゃん。死んだかと思ったよ」
「そうね、私も死んだかと思ったわ」笑う。
この日は、何だかヒーローになったみたいに普段、口も利かない連中が私の所へやってきて色々聞いてくる。
正直めんどくさい。
こんな日が何日か続き1週間もすると皆忘れたように日常が戻ってきた。
放課後通学路を一人で歩いていると後ろから純平が声を掛けてきた。
横に並ぶ純平。
「ねえ、春菜ちゃん。一緒に帰ろう」
「いいけど」
「ねえ、春菜ちゃんって付き合ってる人いるの?」
「はあ?・・・ いないけど。なんで?」
「俺じゃだめ?」
「・・・考えとく」
「ねえ、春菜ちゃんて何が好き?」
「はあ? 何が好きって、急に言われても」
「趣味とかさあ、好きな事」
「趣味、ないね。・・・飯食って寝る事」
「何それ? 飯食って寝る事って、他にあるだろ。例えばさゲームとかマンガとかさ」
「そねー 徹夜でマージャンとかサウナとか。時々風俗いったりとか」
「うそ! 徹マンに風俗って、春菜そんな事してんの?」
「オヤジが」
「何だよ! オヤジかよ。春菜に聞いてんの」
「えーめんどくさいやつだな、お前は! 何だっていいだろ。消えろ」
今まで話もしたこと無かったのに急に付き合おうとかウザイ。
「あー、消えろって。ひどい、そんな事言うなよ」
「別にさ、命の恩人だからって付き合ってもらおうとか思ってないし。竜崎くん付き合ってる人いるんでしょ。無理しないでよ」
先日、純平が別の女子と歩いてるシーンを思い出す。
「俺・・・ああ、彼女ね。別れた、昨日」
「は? 昨日? 昨日の今日かよ。あさって来な」
「あさって? 何で? 今日じゃだめなの?」
「あのさ、とにかく付き合うのは、考えとくからさ、それでいい?」
「いいけど、取り合えず電話番号教えて」
と、ポケットからスマホを取り出す純平。
「チッ」と舌打ちしてめんどくさそうにスマホを取り出す春菜。
「あーめんどくせー。急にメールとかよこすなよ」
「えー、何で? メール位いいじゃん。付き合ってるんだし」
「おめーよー、しばいたろか?」
「おねがいします」
純平の首をしめる春菜。
「ウソですー、ごめんなさい」
ケタケタ笑う二人。
つづく
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