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誰にも言えない秘密
それから毎日のように下校時に校門の外で待っている純平。
私は、男子と付き合った事が無い。
付き合うってどういう事なのだろうか良くわからない。
恋愛とか想像した事もなかった。
私には、誰にも言えない秘密がある。
そんなある日、思い切って聞いてみた。
並んで歩く私と純平。
「ねえ、純平。彼女と別れたってどうしてなのよ」
「ああ、前の彼女ね。彼女って言うかそんなに好きじゃなかったから」
「好きじゃない人と付き合ってたの?」
「そういう訳じゃないんだけど・・・」
「まあ、いいわ。で、何で私なの?」
「キッカケは、確かに助けてくれた事なんだけど、前から話したいと思ってたんだ・・・でも話をするチャンスがなくてさ」
「へーそうなんだ、全然わからなかった」
「何だかいつも考え込んでいて近寄りにくかったって言うか・・・」
身に覚えがある。
休み時間に一人で考え込む事がある。
たぶんそれを見たからなのだろう。
「変よね、私・・・」
「そんな事ないよ」
「いいのよ、私、少し暗いわよね」
「何かあったの?」
言いたいけど言えない。
「うん、ちょっとね」
「僕で良ければ聞くよ」
「・・・純平ってコスプレの事どう思う」
「はっ? コスプレ? 春菜、コスプレーヤーなの?」
言った後で少し後悔した。
「ち、違うって。例えば、例えばよ」
心臓がバクバクしている。
「友達よ・・・ そう、友達にいるのよコスプレーヤー」
慌ててごまかすが本当は、極秘でコスプレをしている私。
「うん、いいと思うよ。僕もコスプレ好きだな」
明らかに自分の事だとバレている。
冷や汗が額に滲み顔が熱い。
そんな私を優しく見つめる純平。
『ああ、言うんじゃなかった』後悔が私の心を閉ざす。
やっぱり理解しては、もらえそうにない。
黙ってうつむく私。
実は、私が最近始めたコスプレの事は、誰にも言っていない。
コスプレを知ったのは、1年前の夏だった。
当時私は、コスプレの事は、何も知らなかった。
知り合ったばかりの彩芽に誘われコミケに行った時の事だった。
ビックサイトと言われる会場に着くとすごい人ごみに圧倒されてしまった。
「すごい人ね、何かのお祭りなの?」と聞く私。
「春菜ってどこの生まれなの?」
「はあ、・・・」答えに困った。
本当は、自分がどこで生まれたのか知らない。
幼い頃の記憶がまったく無い。
でも、母からは、その事を人に言ってはいけないと言われていた。
「あのね、コミケって言って同人誌とかコスプレーヤーが集まるお祭りね」
「はあ、やっぱお祭りなのね」
「春菜って何も知らないのね」と彩芽が笑う。
すごい熱気の中、大勢の人で何だか気持ちがザワザワする。
その、人ごみの中に人だかりが出来ている。
かわいい衣装を着た女子がポーズをとってそれを多くの人が取り囲むように写真を撮っている。
「何? あれ」と指さす。
「ああ、あれ、コスプレーヤーよ」
なんだか、かわいい。
まるでコミックから抜け出してきたような異次元世界。
私は、初めて見るコスプレーヤーに心を奪われてしまった。
「あれって戦闘系のコスプレね」と彩芽が言う。
「戦闘系って闘うの?」
「本当に戦う訳じゃないのよ。戦い系のコミックのキャラクターよ」
確かによく見ると剣を持ってる子とかフリフリのロリータ系の子とか色々なキャラクターがいる。でも皆共通してスタイルが良くて可愛い子ばかりだった。
「恥ずかしくないのかしら」と彩芽が言う。
確かに、ちょっとセクシーだ。
目から鱗が落ちるとは、この事なんだろうか?
日常からかけ離れた異世界にすっかり魅了された私。
すでに心は、あちら側に行っていた。
「かわいい、あれ、私やってみたい」
「はあ? 大丈夫? 春菜」
あきれ顔で私を見る彩芽。
でも、そんな事お構いなしな私。
その晩は、眠れなかった。
目を閉じると昼間見た現実離れした美少女のキャラクターが私の脳裏を覆いつくしていた。
アニメから飛び出してきたような可愛いキャラクター、透き通った金髪、そしてキラキラした青い瞳。長くて細い手、スラッと伸びた脚。
「私も、やってみたい」
私の心は、そう言う妄想に取り憑かれてしまった。
こうしてその日からネットで調べまくりコツコツとお金を貯めてウイッグや色々なカラーコンタクトを揃えた。
しかし、最も苦労したのは、私の体型だ。
身長が低く腰にクビレが無い。
タプタプの体を改造するしかない。
こうして密かに体を鍛えている。
こうして半年が過ぎた。
少しは、それらしくなってきたがどうしても人に見せる自信がわかない。
人知れず週末には、自宅で戦闘系のコスプレして自撮りしている。
それで満足していた。
撮った写真は、こっそり裏アカでインスタにアップしている。
でも、半年になるのにフォロワーは、100人に満たない。
時々「ブスは、見たくない!」とか「縄文人のコスプレ?」とか意味不明なコメントする奴がいる。
「殺したろか!」と一瞬思うがそこは、冷静に受け流す。
まともに相手にしているとコメントが荒れるし炎上もしたくない。
でも悪態つくのにフォローしてくる奴の気持ちがわからない。
こういう奴にかぎって不細工なやつが多いい。(と思ってる)
なので「お前が言うな」と返している。
まあ、たぶん他人が言っている事は、合っているんだろう。
でも、人様の為にやってるのでは、ない。
自分が楽しければそれで良いと心に言い聞かせている。
こんな状態なので知り合いには、誰にも言って無い。
そして2年生になって新学期のはじまり事件は、起きた。
いつものように部屋でコスプレして動画を撮っていた時、母が突然入ってきた。
ドアを開けて入ってきた母が驚いたように私を見る。
「・・・どうしたのその恰好」
一瞬時が止まったように凍りつく私。
「お、お母さん・・・」
そりゃ私だって驚くよ。
トイレの最中ドアを開けられたような羞恥心が湧く。
心の準備が出来ていなかった。
「の、ノック位してよ!」
ウィッグを取り慌てふためく私。
きっと哀れな姿だったのだろう。
「春菜、少し落ち着きなさい」
泣きそうな気分。
「やっだー秘密にしてたのに・・・見られちゃった」
とにかくスマホの電源切った。
「どうしたの春菜?」
ああ、なさけないこんな顚末になるんだったら親に言っておけばよかった。
母が呆れたように言う。
「あんた! 何考えてんのよ! こんな動画取って恥ずかしいと思わないの?」
私を責める母に羞恥心から逃れたい私は、つい強い口調で言ってしまった。
「やめて! 私が何してたって言うの! コスプレしてただけじゃない!」
母の怒りが収まらない。
「恥ずかしくないの? どうしてこんな常識わからないの!」
へ?
常識知らずだって?
コスプレしちゃダメなの?
母とは、その日から口を聞いていない。
そんな時に純平の事故が起きた。
助けたのは、たまたまだ。
目の前に倒れた人がいれば誰だってそうしてる。
少なくても私は、そう思う。
純平を助けたからって、そんな事で恩を着せようと思っていない。
なので付き合ってくれと言われても迷ってしまう。
きっと私の事を知れば純平もいやになるに決まっている。
そう思っていた。
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