コスプレライダー誕生

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コスプレライダー誕生

 日曜日に自宅前までバイクで迎えに来た純平。 純平のバイクは、250ccのツーリングバイクだった。 玄関前に止まるバイク。 交通事故でトラックに轢かれてメチャクチャだったバイクは、すっかり修理され新品のような輝きを取りもどしていた。 「まあ、これ本当にあのバイクなの?」 「ああ、ひどかったものね。エンジン以外ほとんど交換だよ。買い換えた方が安いんじゃないかと思たんだけどね。加害者が修理しか対応しないって言い張るんで、しょうがない」 「ふーん、でも奇麗に治ってるからいいんじゃない」 バイクには、興味があったので少しうれしい。 乗っている純平が真新しいヘルメットを私によこす。 「これって、わざわざ今日の為に買ってくれたの?」 「まあね、気にしないで」 フルフェイスのヘルメットなんて被るの初めてだ。 なんかきつい。 なれないヘルメットに苦戦していると 「だいじょうぶ? きつくない?」と心配する純平。 視界が狭まり圧迫感で少しドキドキする。 「大丈夫よ。さあ、行きましょ」 玄関では、母が心配そうに見守っていた。 バイクの後ろに乗り母に手を振る。 「気を付けていってらっしゃい」と母が手を振る。 軽くふかすエンジン音は、意外に静かだった。 シューンと静かに加速して走り始めるバイク。 純平の腰に手を回す。 バイクの独特の加速音と共にグングン加速していく。 流れる街並みの景色と風を切る爽快感。 今までに味わった事が無い不思議な高揚感が私を包む。 そしてまもなく他のツーリング仲間と合流した。 都内の小さなバイク専門店の前に10台位のバイクが集まっていた。 中には、女子のライダーもいる。 軽く挨拶をしてすぐに走り始めた。 行き先は、山中湖だった。 初めてのツーリングで流れる景色が何もかも新鮮に見える。 途中2~3回休憩をはさみ山中湖に到着した。 晴れ渡った山中湖の向かいには、富士山が雄大にそびえている。 修学旅行以来の富士山は、一層雄大に見える。 適度な疲労感で何だか足がフワフワしている。 別世界に来たような不思議な感覚に包まれていた。 バイク仲間が話しかけてくる。 ライダーの中で唯一の女子だった。 ヘルメットを取ると同い年位の可愛いい女子だった。 「純平、この子彼女? 紹介してよ」と彼女が話しかける。 彼女って、私、純平と付き合ってねーし。 「ああ、この子、立花春菜さんです」 「はじめまして。私、彼女じゃないんですよ。ただの友達」 純平は、苦笑いで私を見ている。 「そうなの? 私、てっきり彼女かと思っちゃって、私、桐谷ルカです。宜しくね」 純平が頭をかきながら、 「ああ、今は、まだ友達なんですけどね・・・」 「ふーん。可愛い友達ね」 やだ、可愛いなんて初めて言われた。 お世辞でも嬉しい。 「どう? バイク、楽しんでる?」 「とっても楽しいです。私バイク初めてなんですけどこんなに楽しいなんて知りませんでした」 「バイクっていいでしょ。ねえ、バイク運転してみたくない?」 「免許ないし・・・」 「取ればいいじゃない。頑張ればすぐ取れるわよ。もうすぐ夏休みでしょ。夏休みにツーリング一緒にどう?」 純平がニコニコしている。 「そうだよ、夏休み前に取ろうよ。僕が教えてあげる」 「でも、両親に言わないと・・・」 ツーリングは、思いのほか楽しかった。 バイクは、想像以上に楽しい。 そう、唯一の好きな事である「コスプレ」と重なる。 戦闘系のパツンパツンの黒いジャケットのコスプレとすっかり重なる。 「これだ! そうだ、私の追い求めていたのは、これだ!」 私は、確信した。 バイクに乗るコスプレーヤー。 もう、これしか考えられなくなっていた。 コスプレで外へ出るのは、恥ずかしいがツーリングならばぜんぜん恥ずかしくない。 鞭や剣は、持てないがパツンパツンの黒ジャケットに金髪、ブルーのカラコンでも全然違和感ない。 きっと、運命だったのだ。 純平が私の前でバイク事故を起こしたのも運命の導きだったのだ。 そう確信した瞬間だった。 その日の晩、さっそく両親に話をしたが猛反対された。 たぶん反対される事は、覚悟していたがその位で私の心は、折れない。 今までのバイトで少しは、蓄えがある。 猛反発を振り切り学校にも許可を得て教習所通いが始まった。 純平やバイク店の店主の支えもあり夏休み前に普通二輪免許が無事取れた。 こうしてコスプレライダーが誕生したのだった。
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