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焼肉大好きな私と深まる友情
夏休みを控えたある暑い日の登校時だった。
私の通う私立岩波高校は、湾岸沿いに佇む小さな私立高校だ。
駅から歩いて10分位の距離にある。
学校へ向かって登校していると後ろから純平が声を掛けてきた。
「春菜、おはよう」
私の横に並ぶ。
「ああ、おはよう」
「ねえ、バイクさ、何買うか決めてんの」
「うーん、黒いバイク。EX250とかにしようかなと思ってる」
「いいね、『ニンジャ』でしょ。似合うと思うよ。で、さあ・・・」
「何?」
「夏休みにさ、キャンプ行かない?」
「キャンプ? いいけど・・・彩芽も誘っていい?」
「いいよ、大勢で行った方が楽しいもんね」
と、後ろから男子の声。
「俺も連れていけ」
突然声を掛けられて驚く2人。
振り向くと直人が立っていた。
「何だよ! 驚かせやがって、いつから後ろにいたんだよ」
「駅からずっと後ろにいた」
「えー! 気持ち悪い奴だな」
「ほんとよね。幽霊みたい」と私。
「キャンプ、俺も行く」
しれっと言う直人。
「はあ? やだよ」ときっぱり断る純平。
「ほっといて行こう」
速足で歩く2人にぴったりとついてくる直人。
休み時間の教室で彩芽にキャンプの事を話す。
「ねえ、彩芽さ、キャンプ行かない。夏休み」
「う~ん、誰と?」気乗りしない様子の彩芽。
「純平とバイクで行くの」
と、後ろから再び直人の声。
「俺も行く」
「チッ、しつこいな・・・」
と言いかけると彩芽が大喜び。
「うれしー、直人君が行くなら絶対行くわ」
「はあ・・・」
何か彩芽の態度があからさまだった。
こうして夏休みを迎え山梨までキャンプにやってきた。
彩芽のお父さん菊池和巳さんがランドクルーザーで私たちのキャンプに参加してくれた。
保護者付でないと学校からも許可がもらえなかった。
彩芽の車に直人がちゃっかり乗り込んで付いてきた。
森林のキャンプ場で脇には、小川が流れている。
静かな森には、鳥の鳴き声とキャンプではしゃぐ子供たちの声が響いている。
澄んだ空気と自然あふれる空間は、都会の喧騒さを忘れさせてくれる。
彩芽のお父さんもキャンプ好きのようで一緒にはしゃいでいる。
いつも無表情の直人も彩芽に懐かれて心なしか嬉しそうに見える。
河川敷に石を積み重ねたバーベキューコンロの炭も程よく燃えてきた。
彩芽のお父さんがせっせと肉を焼いている。
網の上から牛肉が焼ける香りが私の空腹を惑わせる。
「あー、いい臭いだわ。もう食べたいです~」
がまんできねよ~(´∀`)/V
よだれが口から出そうだ。
紙皿を持って待ち構える私。
笑いながら私の皿に焼けたお肉をよこす。
「ほら、焼きたて。うまいぞー」
いや、言われなくてもわかってるし。
ガッつく私。
「うめー!」と、歓喜の声。
純平と和巳さんが私を見ながら微笑んでいる。
「うまそうに食うね」
川遊びをしている彩芽達に向かって大声で呼ぶ和巳さん。
「おーい。肉焼けたぞ! 早く来ないと全部春菜さんに食べられちゃうぞ」
「はーい! 今行く」と、彩芽から返事が帰ってくる。
いや、全部は、たべねーし。
お肉を食べていると和巳さんが話しかけてきた。
「ねえ、春菜さん。ちょっと聞いてもいい」
「はあ? 何でしょう」
「あの2人」と指を差す先に彩芽と直人が川原でいちゃいちゃしている。
「ああ、仲いいですね」と笑う。
「直人君てどんな人なの?」
「はあ、私たちも良くわからないんです。あいつ転校してきたばかりなので」
「そうなの? てっきり君たちと仲が良いんだと思ってたんだけど」
「彩芽ちゃんが惚れてるんじゃないですか」と笑う。
川で水を掛け合ってキャーキャー騒いでいる二人を微笑ましく見ていた。
と、その時直人が足を滑らせ、ザブンと川にはまる。
「あーあ、やっちゃったよ」
私もその時には、大変な事になると思っていなかった。
「キャー」と言う彩芽の叫び声。
笑いながら見ていた私たちに緊張が走る。
全員立ち上がり彩芽の方を見ると川の急流に流されてゆく直人が見える。
彩芽が呆然と立ち尽くしている。
みるみる急流の中に飲み込まれてゆく直人。
流れの中に微かに「助けて!」の声がする。
慌てて私たちも川に走る。
和巳さんが助けようと川に入るが思いのほか流れが早い。
和巳さんは、たちまち流され近くの岩に必死にしがみつく。
波間に浮き沈みする直人は、必死にもがいている。
みるみる直人の姿が遠のいてゆく。
呆然と立ち尽くす純平に声をかける。
「だめだ!このままじゃ直人が死んじゃう。救急車呼んで!」
純平は、気を取り戻したようにスマホで救急車を呼ぶ。
私は、後先を考えず上着を脱ぎ捨て川に飛び込んだ。
私は、泳ぎが得意だ。
服が水を含むと泳ぎにくくなる事は、知っている。
でも、さすがにズボンは、脱げない。
水を含んだズボンは、重く足にまとわりつく。
上半身だけで必死に泳ぐ。
急流は、容赦なくその渦の中に私を飲み込む。
もがく直人が目前に迫ってきた。
すると、ガバッと私に抱き付く直人。
溺れる者は、藁をも掴むとは、この事か!
『だめ! いっしょに溺れちゃう』
と思うが、抱き付かれた私は、直人もろとも水中で声も出せない。
水中に引き込まれるように沈んで行く私たち。
その日の深夜。
暗い闇から目覚めるとそこは、ベットの上だった。
いつ意識を失ったのだろうか。
静かな病室のベットに横たわる私の横には、母が手を握って眠っていた。
「・・・おかあさん」
目を覚ました母。
「ああ、気が付いたのね。大丈夫? 春菜」
「大丈夫よ。・・・直人は?」
「大丈夫よ。あなたのおかげで助かったって」
「ああ、良かった。皆無事で」
ホッとした私は、ふたたび寝てしまった。
まるで何か悪い夢でも見たようなそんな雰囲気だった。
幸い私は、後遺症も無く翌日には、退院できた。
そして退院後は、平穏な日常が戻った。
キャンプから数日後、皆で私の部屋に集まった。
純平が冗談のように言う。
「春菜、お前、不死身だね」
「えっ、何? 知らなかったの。私、殺しても死なねーって」
「キャー、ゴキブリみたい!」と彩芽が笑う。
「はっ? ゴキブリ死ぬし」と私。
皆が笑うが直人だけ真剣な顔してる。
「何、直人だけマジな顔してんのよー」
「俺、マジだし」
「はあ? マジかよ?」と純平があきれる。
「冗談よ、私だって普通の人間よ!」
と、その時は、思っていた。
それからというもの直人は、彩芽を連れてちょくちょく私の家まで遊びに来る。
相変わらずぶっきらぼうな物言いは、変わらないが以前ほど気にならなくなっていた。
こうして、純平、彩芽、直人と私たち4人の友情が深まって行った。
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