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春菜の操、危機一髪
夏休みも終わり新学期が始まった。
初日の始業式が終わり帰路に就いていた。
いつもの通り純平と並んで歩いていた。
コスプレヤーの事をいつか話さなくっちゃと思っていた。
今日は、覚悟を決めて言うつもりだった。
「ねえ、純平さ、コスプレってどう思う?」
「それって前も聞いてきたよね。春菜コスプレ似合うと思うよ」
「やっぱり知ってたのね」
「そりゃわかるよ。春菜の部屋、コスプレの写真ばっかりだったじゃない」
「あー、そうか。・・・じゃあ、皆知ってたの?」
「ああ、彩芽も直人も知ってる」
「私、似合わないよね。コスプレ」
「いや、そんな事ないよ。バイクスーツなんかすげー似合ってるし。好きだな、ああいうの」
「ほんと、うれしー」
さっきまでの不安が吹き飛んで、もうウキウキな気分。
ガード下の路地に差し掛かると正面になにやら怖そうなお兄さん方が屯していらっしゃる。
ルンルンな気持ちがどこへやら少し不安が湧いてくる。
「純平、あれ、大丈夫かな」
「ああ、目を合わせないように通ろう」
屯しているお兄さんは、袖の無いシャツから墨で描いたような素敵な絵柄が見えている。
スキンヘッドのお兄さんもいる。
その方々の会話が止まり私たちを見ている。
その方々の脇を通り過ぎようとしたときに事件は、起きた。
「おい、待てよ。お兄ちゃん」
スキンヘッドのお兄さんが純平の事を『お兄さん』と呼んでいる。
ドキッとした私は、純平の袖を掴む。
純平は、心なしか震えている。
黙って通り過ぎようとすると、
「おい! シカとしてんじゃねーよ」と立ち上がり私たちの前に立ち塞がる。
純平も私も足が硬直して立ち止まる。
緊張が高まり心臓ドキドキ。
「ど、どいてください」純平の声が上ずっている。
「あーん、どけだと? 誰に物言ってんだよ」
「はあ、あの・・・お金なら持ってません」
「金? 金は、いらねーから女置いてけ」
は? 女って私の事? 何で?
「だ、だめです。できません」
だいぶ緊張している純平。
「クソかお前!」と純平の襟を掴み蹴りを入れるスキンヘッド兄貴。
「グウ!」と、うなってしゃがみ込む純平。
「やめてー!」と、叫ぶしかなかった。
「黙って付いてくりゃいんだよ」とスキンヘッド兄貴。
周りの男たちが私を取り囲む。
どうすりゃいいのさ?
そうだ、私は、腰の括れを作るためトレーニングでボクササイズをやっていたのだ。
これしかない。
護身にも役立つボクササイズ。
その時にとっさに思いついたのだが試すしかないと思った。
脇を押さえボクシングスタイルで構える。
「おい! ハゲ。お前らやっつけてやる。掛かってこい!」
瞬間的にアドレナリンが湧きテンションマックス。
何だか今ならやれそうな気がした。(根拠の無い自信)
「あれ、何? このねーちゃん。俺らとやる気かい?」
シャドウボクシングスタイルで構える私に殴りかかってくるスキンヘッド兄貴。
軽く躱しすれ違いざまにパンチを相手の腹に打ち込む。
思いのほか腹に食い込むパンチ。
腹を押さえながら前のめりになるスキン兄貴の顎に下からのパンチを浴びせる。
ガツンと確かな手ごたえは、私の握り拳に意外な衝撃を与えていた。
あれ? 意外にうまく行くじゃん。
倒れるスキン兄貴。
「ざまあみろ!」と思った瞬間、脇にいたモヒカン兄貴が私の顔面にパンチを浴びせてきた。
そのパンチは、私の鼻を捉え衝撃で目から星が飛ぶ。
クラッと意識が飛びそうになる私。
手で押さえた鼻から血が出ている。
血を見た瞬間『こりゃだめだ!』と戦意が消える。
「このクソガキ!」と言いながら殴りかかる男たち。
うずくまる私にパンチやら蹴りが次々に入ってくる。
いたいけない少女を集団でリンチかよ。
「痛い! 勘弁して!」頭を押さえてうずくまる。
もう私の操は、ここで奪われてしまうのかと覚悟した。
その時だった。
「お前ら、やめろ!」
中年男性の声がした。
通り掛かりの人だった。
「お前ら、こんな女子をよってたかって殴っていいと思ってるのか?」
スキンヘッド集団が手を止め男を見る。
「何だ、お前は、関係ないだろ、ひっこんでろ! ジジイ」
と、次の瞬間殴りかかるスキン兄貴。
しかし、その中年おじさんは、見かけによらず強い。
男たちを投げ飛ばしあっという間に男たちをけちらした。
「おい! 立花春菜! お前、ただで済むと思うなよ」
と捨て台詞を言って逃げて行くスキンヘッド集団たち。
危機一髪の所で救ってくれたおじさんが私の体を起こしてくれた。
「大丈夫? だいぶやられていたけど」
立ち上がる私。
「鼻血が出てるよ。拭きなさい」と、ハンカチをくれた。
「ありがとうございます。おじさん」
受け取ったハンカチで鼻を押さえる。
「見てたけど、君もそうとう気が強いね」
「いや、情けないです。やられっぱなしで・・・」
やれると思ったんだけどな、やっぱ甘かったか。
内ポケットから名刺を取り出すおじさん。
「何かあったら遠慮なくここに電話してね」
その名刺には、遺伝子科学研究所「備正淳」と書かれていた。
「はあ、ありがとうございます。何とお礼を言ったらいいのか」
「じゃあ、気を付けて」と言い颯爽と去ってゆくおじさん。
純平も立ち上がり去ってゆくおじさんの背中を見ている。
「今のおじさん、何者?」と聞いてくる。
「ああ、遺伝子科学研究所の人みたい」
「世の中けっこう強い人もいるんだね」
「ええ、すごい人っているのね」
ふと、スキンヘッド兄貴の捨て台詞を思い出した。
「あいつら、私の名前を知ってたわ。てっ事は、私を最初から狙っていたって事なのかね?」
「まさか・・・ でも、春菜色々な意味で有名人だものね」
「ああ、怖かった。一応警察に届けて帰ろう」
「春菜、鼻、大丈夫?」
「ああ、もう治った」
いったい何だったのだろう?と不安がよぎる春菜だった。
その時は、事件が更に拡大して行くとは、想像もしていなかった。
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