波乱の幕開け

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波乱の幕開け

 翌朝、いつものように彩芽と学校へ登校した。 校門に向かって歩いていると後ろから純平が声をかけてきた。 「よう! おはよう」 「ああ、おはよう純平」 「昨日は、あの後大丈夫だった?」 何も知らない彩芽が不審な顔をする。 「ねえ、何かあったの?」と彩芽が聞く。 「ああ、ちょっとね。悪い奴らにからまれて・・・」 「そうなんだよ、それがさ、そいつら、いきなり俺たちを取り囲んで殴ってきたんだよ」 「うっそー! 大丈夫だったの春菜」と驚く彩芽。 昨日の出来事を説明した。 「すごい事があったのね。春菜」 「そうね、気をつけなくっちゃね、ああいう奴らには」 「でもさ、春菜がかかって行った時には、驚いちゃったよ」と目を丸くして言う純平。 「何だろね私、後先考えずに体が勝手に動いちゃうのよね。アホなのかね?」 「かもね」と笑う純平。 「お前! そこは、否定するところだろ。しばいたろか」プンプン。 「でもさ、そのおかげで俺も命拾いしたんだし。直人も助けて、すごいよお前」 「感謝しな。と、言いたいところだけど、あのおっさんに助けてもらえなきゃ私もどうなっていたか・・・」 「おっさんって、誰?」と彩芽が聞く。 「名刺貰ったんだよね。たしか遺伝子科学研究所の備さん」 「はあ、備さん・・・中国人かね?」 「うーん? わかんない。ハンカチ借りっぱなしだし、近いうちに行ってみるわ」  教室入ると直人の席が空いている。 授業のチャイムが鳴ってもまだ来ない。 「直人遅刻かね?」と純平に聞いてみた。 「わからない。そのうち来るんじゃないの」 その日とうとう直人は、現れなかった。 「病気かね? 直人」 「どうかな、連絡してみれば」 「知らないもん。電話番号とか」 彩芽や先生に連絡先を聞くが誰も知らない。 改めて直人は、謎の多い奴だった。 「誰も知らないのかい」 それから3日後の朝。 純平と並んで登校していた。 「どうしたのかね直人、もう3日も来てないけど」 「不登校かね。あいつ少し暗いし」と純平。 「暗くて悪かったな」と、後ろから直人の声。 驚いて振り向くと直人が真後ろにいた。 直人の左目が黒く腫れあがり頬も腫れていた。 私は、一瞬驚いた。 「どうしたの? その顔。殴られたの?」 「ああ、何でもない」 「何でもない訳ないじゃない。その顔」 「ころんだ」 「は? 転んでできる傷じゃないでしょ!」 「マジかよ」と純平も驚いている。 「もしかして、虐待されてるの?」 「・・・何でもない。いいから心配するな」 「いいわけないでしょ!」 私は、すごく心配になった。 口数少ない直人は、きっと虐待を受けて親に何も言えないのだと。そう思った。 直人は、その後何も答えなくなってしまった。  この日は、直人と純平の3人で下校した。 しばらく歩くと暴漢に出くわしたガード下に差し掛かる。 「ねえ、心配だから回り道しよう」 だいぶ遠回りになるがガード下を迂回することにした。 迂回路は、片側2車線の大きな通りで交通量も多い。 「まあ、この道だったら大丈夫でしょう」 この時は、油断していた。 まさかこんな所で暴漢に合うとは、想像もしていなかった。 正面から不審な2人の男たちが歩いてきた。 男たちは、黒いスーツにサングラスで、いかにも怪しい。 うん、何だろう? 今どき黒スーツにサングラスのおっさん達は、異様に見えた。 「ねえ、純平。あれ変じゃねー」と囁く。 すると直人が立ち止まる。 「おい! 春菜。止まれ」 「えっ、何なの?」 何か得体の知れない緊張感が漂う。 足を止める私たちに向かってズンズンと迫る黒服の男たち。 直人が「逃げろ!」と大声を出す。 「はっ? 何言ってんの?」 私は、プチパニックに至っていた。 振り返ると後ろにも同じ黒ずくめの男たちが迫ってくる。 「なんなの?」 「しまった。囲まれた」直人が緊張して言う。 はあ? 何で囲まれるの? やっぱ私目当てなの? 動揺する私達を囲むように立ち止まる男たち。 ヤクザか? 何だか今まで経験した事の無い異様な雰囲気が私たちを包む。 「な、何なの。あんた達」 すると私たちのすぐ脇に黒塗りの乗用車が急停車する。 これは、ただ事じゃあ無い。そう直感した。 すると車からサングラスの男が下りてくる。 「おい、直人。お前裏切るのか?」 車から降りてきた男がサングラスを取ると直人にそっくりなおっさんだった。 あれ? こいつ直人のオヤジか? そう、きっとこいつが直人を虐待している父親だと確信した。 直人が私たちを庇う。 「うるさい! 春菜は、渡さない!」 私は、驚いた。直人が私を庇っている。 「何よ! あんた直人の親でしょ。何で私を付け回すの?」 「親?(笑)ふん、俺は、親じゃ無い」 「じゃあ、何なのよ?」 「うるさい! お前以外に用は、無い」 と、男が懐から銃を取り出し構える。 驚いた。 現実世界で銃なんて持ってる人なんて初めて見た。 恐怖で固まる私たち。 「そ、それって本物?」と言う私。 「ふふ、じゃあ試してみようか?」 と、銃を私に向ける。 えっ? 試すなら上でしょ? 何でいきなり私に向けるの? 『パン』と銃声音が響く。 思わず目を閉じる私。 『やられた!』と思うが体は、何ともない。 そっと目を開けると目の前に直人が胸を押さえて立っている。 直人が盾になって防いでくれたのだ。 「お前! 裏切り者め!」と男が叫ぶ。 崩れ落ちるように倒れる直人。 交通量の多い道路。 様子を目撃した車が止まり人が集まる。 「クソ、邪魔が入ったな!」 男たちは、車に乗り逃げて行く。 へたり込んだ純平は、あぜんとしている。 崩れて倒れた直人の胸からは、大量の出血をしている。 私は、直人の胸を押さえて止血する。 「しっかりして!」 意識が遠のく直人。 うっすらと目を開けた直人が力なく言う。 「春菜、備の所へ行け」 「何? 何で今そんな事言うの? しっかりして」 春菜の腕の中で意識を失う直人。 直人の胸からは、容赦なく血が湧き出ている。 純平は、震えて座ったまま立ち上がれないでいる。 恐怖で腰が抜けたのだろ。 どうして?なぜ、こんな事になるの? 私は、混乱していた。 目の前で私の為に直人が死にかけている。 やるせない悲しみが込み上げてくる。 「しっかりして! 直人!」 そう言うのがやっとだった。 遠くから聞こえる救急車の音が耳に木霊する。 まもなく到着した救急車に同乗して病院に行く。  病院の集中治療室の中で力なく眠る直人。 硝子ごしに見守る私に純平が声をかける。 「きっと大丈夫だよ」 慰めなんていらない。ただただ悔しい。 あいつら何を目的に私を狙うのか。 「何であいつら私を狙うの? 直人は、私を庇って撃たれたのよ」 泣き崩れる私の肩を抱く純平。 騒ぎを聞き両親が駆けつけてくれた。 医師が直人の命は、とりあえず取り留めたと言う。 こうして波乱の一日が過ぎて行った。
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