◆おいしいが幸せ

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◆おいしいが幸せ

 初夏の日差しの下、私、細井里桜は中学校からの帰り道を鼻歌混じりで進んでいた。この時、私の頭の中は帰ってからの〝お楽しみ〟のことでいっぱいだった。  そうして帰り着いた我が家。 「ただいまー!」  玄関を上がって一番にキッチンに向かうのはもう習慣。 「おかえりなさい里桜ちゃん、学校はどうだった?」 「うん、別に普通だよ」  玄関先まで顔を出し、迎えてくれたママの横を気のない返事をしながら通りすぎる。一瞬、お昼ごはんの後に起こった普通ではあり得ない〝悲しい珍事〟が脳裏をよぎった。しかし、目先のことで頭がいっぱいの今はそれを片隅に追いやって、真っ直ぐにお目当ての棚に行く。  うきうきで取っ手を掴み、エイヤと引けば――。  ……ああ~! これよ~、これよ~♪  棚の中には、あふれるほどのお菓子が詰まっていた。  口の中で甘くとろけるチョコレート。サクサク食感のクッキーに、パリッという小気味いい噛み音とともに心地いい塩味と至福感が広がっていくポテトチップス。この世のすべての幸せは、このお菓子収納棚の中にある!  ……うん。食べるのを想像しただけで、すでに口の中が幸せでいっぱいだ!
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