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二人で浜辺に腰を下ろして海を眺めていると、海風が吹きつけた。気持ちよくて思わず伸びをすると、隣で真理が続けて伸びをした。
俺の真似をして楽しそうに笑う。それにつられて俺も笑う。こんなにも穏やかなひとときは随分久しい。
「ほんとに懐かしいね。こうして一緒に海を眺めて、色んな話したよね」
「だな。そういえば最初に俺の芝居見たのって真理だったよな。砂浜での一人芝居」
「えー、あれ一人芝居っていうか、私が好きだったドラマの完全再現でしょ?」
真理がテレビドラマが大好きで、寝る間も惜しんで録画したドラマをみては、面白かったものは見てくれと積極的にビデオを渡してくる。真理が薦める作品は男の俺がみても面白いラブストーリーから、腹がよじれるぐらい笑えるコメディまで。上京したばかりでお金が無かった頃はずっとそればかりを見ていたのを覚えてる。
「でも、あれが俺の俳優になるきっかけなのは間違いないよ。覚えてるだろ?今思えばとても人様に見せれないものだったけどな」
「たしかに。今のふみくんのファンはあれを見たら幻滅するだろうね」
あははと真理は笑ったが、あのテレビの向こう側にいる俳優みたいに真理に褒められたくて、俺は芝居を始めた。真理が大好きと語るシーンの台詞をノートに書き出し、何度もビデオを見て動きを覚えて、日が沈もうとしている砂浜で真理だけに見せたのが、俺にとっての初舞台だった。
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