秋 冷 -The cool of autumn-

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秋 冷 -The cool of autumn-

「あー、もう……ガチで死にてぇよぉ、オレ!」 オレは、ハデに泣き声をあげながら、ヨーヘイの制服のシャツにしがみつく。 たちまち、ヨーヘイの心臓がヤバいくらいにバクバクと跳ね上がり出した感触が両手に伝わってくる。 ……バカだよな、コイツ。 そんなに後ろめたいなら、他人のカノジョにコソコソとチョッカイ出すんじゃねーっつーの! けど、顔はムカつくくらいに涼しく取りつくろったまま、 「……物騒なコト言うんじゃねーよ」 そう言って、ヨーヘイは、オレのアタマをクシャクシャ撫でまわす。 そりゃそーだろ。 オレがガチで首つったりしたら、この先ずっと『罪の意識』ってヤツにさいなまれて暗ーい人生を送るの決定だもんな、オマエ。 あ、でも……それって、悪くないかもしんないなぁ。 ほら、……狂言自殺ってゆーの? 今すぐ校舎の屋上に駆け上がって、フェンスに乗り出して落っこちるフリして見せたら、ヨーヘイのヤツ、真っ青になるだろーし。 そんでもって、この先ずっと、寝てもさめても、ずっとずっとずっと、……オレのことばっか心配して……悩んで、苦しんで、自分を責め続けるんだ。……ざまーみやがれ。 「だ、だってさぁー、また浮気されて『バイバイ!』だぜぇー? これで何度目よぉー……」 オレは、わざとらしくヒクヒクとシャクリ上げながら、さらに泣きついてみる。 ヨーヘイの心臓が、また、ビクンと躍り上がる。 オレの胸は……どんどん冷たく沈んでいく。 オレは、しょっちゅう女子に告られる。 ジャリーズのナントカいうヤツに似てるとか言われて、気安く声をかけられる。 ぶっちゃけ、そんだけ軽く見られてるってことだ。 ヨーヘイの方はっていうと、オレよりタッパがあって肩幅もあるし、オレみたいに女子の前で調子にのってチャラけるようなタイプじゃないし。まあ、もともとオンナ嫌いだからね、コイツってば。 毎朝、ホームルームの予鈴が鳴る最中、閉まりかけた校門の間を、単車(バイク)をフカシてサッソウと滑り込んでくるヨーヘイに、ガッコの女子どもは、教室の窓からアツクルしいマナザシでボーッと見惚れてたりするけど、面と向かって告る度胸のあるオンナは1人もいやしない。 女子どもにしてみれば、ヨーヘイには、クールで近寄りがたいオーラがあるんだろう。 男子どもにとってみると、めちゃめちゃ頼りがいがあって話せるオトコなんだけどな。 けど、こんなにイケてるヤツが、親友の付き合うカノジョをカタッパシから食いまくってるなんて。笑えるだろ? 「オレって、オンナ見る目ねーのかなぁ?」 と、オレは、グズグズ鼻を鳴らす。 ヨーヘイは、サラリと答える。 「まあ、そりゃ言えてるわな」 「そこは否定してくれるトコっしょー!? もうっ、ヒドいよ、ヨーヘイっっ!!」 オレは、ヨーヘイの胸を両手でバシバシ叩いてやる。 熱く震えてるヨーヘイの鼓動をもっと感じたくて。 ああ、もう。ホントにバカだよ、コイツってば。 なあ、……オレのカノジョとヤッてるときって、どんなことを考えてんの? 分かってるよ。オレの手やクチビルが触れた軌跡を想像しながらコーフンして、ヤリまくるんだろ? オンナの肌が覚えてるオレの体温とか、匂いとか、感触とか。そーゆーのを、自分の肌とクチビルで残らず塗り替えて奪い去ろうとして。 そんで、スミからスミまでオンナのカラダを汚しつくすんだ。 なあ、ヨーヘイ……、 オレ、そんときのオマエの顔を想像すると、……たまらなく、腰の奥がゾクゾクして、ブッ飛びそうになるんだ。 オレって、イカレてる? けど、みんなオマエが悪ぃんだかんな。 ゆっとくけど、オレ、まだドーテイだし。 それなのに、オマエ、勝手にカンチガイして。 もとはといえば、ヨーヘイが、あんまりジレったいから。 だから、ハライセまぎれに、オンナに告られたらソッコーでOKって答えるようになったんだ。 そしたら少しはテンパってくれるんじゃないかって。ムシのいいこと考えて。 けど、ヨーヘイのヤツ、よりによって、オレが付き合うオンナをカタッパシから寝取るようになっちまった。 テンパりすぎにもホドがあるだろーが。コイツの思考回路って、どーなってんだよ!? バカなヨーヘイ。 そんだけイカレたマネができるのに、なんで、たったヒトコトがオレに言えないんだよ? しょーがないから、オレは、ヨーヘイに寝取られたオンナの数で、ヨーヘイの想いの深さを都合よく想像するしかなくて。 だから、また。スキでもないオンナに愛想笑いを振りまき続ける。 胸の奥が、……冷たい。 「機嫌なおせよ」 ヨーヘイは、アサッテの方に目をそらして言う。 「もうすぐ誕生日じゃん、オマエ。バイクで海に連れてってやるから、な?」 ……ヤバい、超嬉しい。 けど、オレは、あえてスネた声を出してみる。 「マジで?」 「もちろん、マジ……」 ヨーヘイは、言いかけて、急に真顔でコッチを向いた。 肩に置かれた手の温度が、制服ごしにも熱くて。ササクレだったオレの胸の奥も、焦げ付きそうになる。   「マジで。……オマエが、スキだよ」 「え……?」 オレは、ゴクリと息を飲んで顔を上げる。 「ゴメン。ヒコーキがうるさくて聞こえなかった」 だから。もう一度、ちゃんと聞かせてよ、ヨーヘイ。 「今、なんつった?」 ヨーヘイは、ホッとしたように口元をゆるめて、 「マジで、オマエ、……オトコを見る方の目は確かだな、って言ったんだよ。こんなイケてる親友を持って、幸せだろ?」 そうシャーシャーとヌカシやがった。 オレは、イッキに脱力した。 ……このヘタレ! チキン! 意気地なしっ!! 「うわー、ヨーヘイって、寒っ!」 「そうか? オレは、暑くて……どうにかなりそうだ」 「はぁー?」 そのとき、休み時間の終わりを告げるチャイムが校庭に鳴り響いた。 「今日の英語って視聴覚室だよね? 早く教室に戻んなきゃ!」 オレは、ヨーヘイをほっぽって、サッサと校舎に向かって走り出した。 もう。知るもんか、あんなバカっっ!! ナニゲに顔を上げると、長い長い飛行機雲が真っ青な秋の空をグングンと引き裂いていくのが見えて。 なんか、ヤケに……鼻の奥が、ツンとした。 END
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