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二〇五八年。
人は朝起きて身を整えると、ヘッドセットを被ってVRの世界にフルダイブすることが一般的になった。仮想空間上で交流、学業、仕事をする。ゲームは今やほぼVRだろう。フルダイブ型システムは電気信号を直接脳の神経に流すことで脳内に直接情報を再現する。
二十一世紀初頭、全盲の女性の後頭部視覚皮質に埋め込まれた電極を通じて視覚情報を再現することに成功した。その映像は最初はモノクロで薄ぼんやりとしたものではあったけれど、その技術は見る間に進歩し鮮やかな色彩を再現することができるようになる。一旦そうなれば話は早く、視覚だけではなく聴覚、味覚、触覚と言った情報をVRで再現することが可能になった。
そしてそのころには脳に電極を挿す必要もなく、ヘッドセットが人毎に異なる神経組織を自動的にスキャン解析してそれぞれの五感に相当する神経部位を特定、そこに情報を上書きできるようになった。使用に操作も負担も全くない。人は現実ではなくVRの上でも様々なものを現実と同じように体感することが可能になった。
アウトプットの研究も同時に進行した。運動障害を持つ患者の脳波をモニタリングして対象の運動信号を読みとり、車椅子等移動ユニットや通信機器へ出力する技術が研究された。VR情報を受け取るだけでなく、脳波を読み取ることでVR空間を眺めるだけでなく自律的に干渉することが可能となった。それはVR上からVRも含めた現実に干渉する技術として確立した。
今ではそう、ヘッドセットは前頭から耳の上と後頭をつなぐ薄いベルトに頭頂部を経由する何本かのベルト、つまり帽子のフレーム程度の被服でVRの世界にフルダイブできるシステムが主流となっている。
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