記憶探し【短編】

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 それで私と侑季が研究しているのは脳波に現れない記憶の再現研究だった。  VR上でリアルタイムに思い描く内容を相手に伝えることはもちろんできる。けれども記憶というのは脳波の動きによらないところに格納されている。  特に長期記憶は海馬を通じて大脳皮質に広く分散保持される。特定の記憶を司るシナプスを電気的に刺激することで『思い出す』。シナプスに同じ情報を頻繁にインプットするとより太い回路が形成されて分厚くなった記憶を『思い出しやすくなる』。ほとんど使用しない記憶はやせ細ってアクセス困難になって『思い出せない』。だから本の内容をタイトルで思い出せなくても、再び手に取り目を滑らせればその本について記録したシナプスに電気信号が流れ、そういえばこんな内容だったと『思い出す』んだ。  それで私は、私たちは記憶を失った人の脳に擬似的にダイブし、VRの情報を流し込むようにその脳の神経の上を渡り歩いてシナプスを刺激して、本人が認識が困難となった記憶をすくい上げる、そのための研究を行っていた。  それでその目処はある程度立っていた。記憶を取り出す理論までは。あとはそれを記録し、記憶として再構成して脳に再び植え付ける、それだけ。そしてその構想は既に侑季の脳内で形作られていたはずだ。だから、侑季の記憶をたどればその方法がわかる、はず。
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