記憶探し【短編】

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 状況整理。  困った時、侑李はいつもそう言っていた。  侑李が海岸で倒れているのが見つかったのが4日前。すぐ救急搬送された。検査の結果、脳の作用は失われておらず、心臓も動き自発呼吸も再開した。けれども意識は回復しなかった。今は鼻から胃にチューブを通し経鼻経管栄養でエネルギーを摂取している。  植物状態の原因は大脳の軽度の損傷。損傷自体は再生手術によって既に回復している。識が戻らないのは器質的な問題ではなく、その精神だとか心の問題ではないかと医師は言う。精神的な領域については医学が発達した現在でもわからないことが多い。  私と侑李はこころというのは結局の所、記憶なのだと思っている。記憶というのはその人の全てだ。多くの出会いや行動の結果の記録がその人に影響を及ぼし、その人の人格を形作っていく。だからきっと大事な記憶が歯が抜けるように欠けていけば同じ人格は保てない、と思うんだ。  だから私は侑李の記憶の中から『記憶を再構成して植え付ける』方法論をサルベージしている。それをこの私たちが作って夢と名付けた機械にプログラムして起動する。それで侑李を復元する。それが私の目的。そう、侑李の横たわる台にもたくさんそう書いてある。決して目的を見失わないように。  そう、私は、仁凪。
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