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多勢に無勢。ボールスは肩で息をしていた。飲まず食わずで逃げ、戦っているのだ。疲労はすぐに見えてくる。
「はぁ、はぁ……」
呼吸をどうにか整えるために息を大きく吐き出す。吐き出したことにより、少しだけ、ましになる。だが、それも一時だけだ。ボールスは剣を握りしめる。
「いい加減、抵抗するな!奴隷が!」
傭兵はそう言いながらボールスに向かっていく。その剣を受け流し、身を躱すと剣を叩きつけるが、浅い。もはや、疲労はピークであり、捕らえられるのも時間の問題となってきた。不意に後ろに殺気を感じ、剣で受けようと剣を後ろに回す。
次の瞬間。
「――ッ!」
それは剣による攻撃ではなかった。ただ、単純な体当たり。態勢を崩すだけの単純な攻撃だったのだろう、だが、ボールスには絶大な効果を発揮した。他人との接触によるパニック。
「あぁ、や、だぁぁ、ああぁぁぁ」
剣を落とし、うずくまる。それを好機と見て傭兵たちがボールスの体を拘束する。
「やめて、やめて、いやだぁ、やだぁ」
子供のように泣きじゃくり、複数の傭兵達の手がボールスの体に触れる。ただ、捕まえるだけであったとしてもボールスにとって誰かに触れられる事は穢れた行為と等しい。
大袈裟だろうが、自分自身の魂が穢されていくような気がするのだ。穢れきった手で触られて、黒く、黒く穢されていく。それがボールスにとっての恐怖。先程まで威勢を放っていた姿は見る影もない。
「はじめから大人しくしてればいいものを」
傭兵の一人が薄気味悪い笑みを浮かべると、ボールスの服に手をかけた。
「奴隷が逆らうなどあってはならないことだ。いいか?お前はそれが分かってない。体に叩き込んでやるよ」
そう言うと、体に拳を放つ。
「う、あっ!!」
何度も何度も拳をぶつける。
「いいか? 傭兵に逆らい、ましてやエルドラ様に逆らうなど考えぬことだ! お前は奴隷! 逃げられない! 一生奴隷なんだよ!」
怯えた目をボールスは傭兵に向ける。やはり、逃げられない世界。どこにいっても闇なのだと、目を細めた。あの赤がもう一度見たい。ただ、それだけの願いだったのに。
目を閉じて、諦めようとしたとき、不意に眼前を赤が覆った。
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