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赤い髪の男は自分のマグカップに口をつけながらボールスを見つめた。
「ココアだ」
「ショコラショー?」
ボールスはポツリと呟き、マグカップに口をつけた。驚くほどにその暖かさと甘さが体に染み渡った。疲れていたし、空腹だった事がよく分かる。気がついたら、一気にココアを流し込んでいた。
ボールスはマグカップを置くと赤い髪の男の方を向いた。赤い瞳と薄紫色の瞳がぶつかる。
「ありがとうございます」
目が合うと、ボールスはそう言った。逸らすこともなく、真っ直ぐに瞳を見つめていた。
「気にするな。何となく成り行きだ。それに、あいつらの事は元々気に食わなかった。それだけの事だ」
赤い髪の男はぶっきらぼうに語る。それに嘘はひとつもついていない。成り行きなのも、他の傭兵たちが気に食わなかったのも真実だ。
「助けてくれたことは感謝します。しかし、助けてほしくはなかった」
ボールスの言葉に赤い髪の男は眉根を寄せた。
「貴方を巻き込みたくはなかった」
「巻き込まれた訳じゃない。俺が勝手にやっただけだ。それでお前が引け目を感じることはない」
そう、勝手にしたことだ。
「それに他人は他人、己は己だ。俺の行動は俺によって決める。お前だってそうだろう?」
自分勝手と言うように聞こえなくもないが、ボールスにはその言葉の真意が分かっていた。分かったからこそ、返す言葉もなかった。他人がなにか言おうとも、決断するのは最終的には自分自身なのだ。強い意思と芯があるからこその選択の決断。だからこそ、その言葉が深く理解できた。
「それに何故かな。お前が気になっていてな。お前はこの世界の人間とはどこか違う。ズレを感じる」
赤い髪の男の言葉にボールスはビクリと肩を震わせた。それは一瞬の動きで、じっと見つめていなければ気づかないような動きだったが、赤い髪の男は気づいていた。ずっとボールスから目を離さないで見つめていた。
「お前は何者だ?どこから来た?」
赤い髪の男はボールスにそう聞いた。ずっと疑問に思っていたことだ。ボールスは話すべきか少し迷った様子だったが、マグカップを脇に置くと赤い髪の男の方を向いた。
「私の名はボールス。ボールス=K・ボゥホート。多分、ここの北にある場所から……」
名前をはっきりと言ったのに場所は曖昧だった。
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