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「北……? 何もない荒れ地だ。昔は国があったようだがな。ロジミ……カリ、アだったか? これは聞いた話だがな」
赤い髪の男は少し思案し、そう答えた。誰かが話していたのを軽く聞き流していただけだから、きちんと覚えていたわけではない。
「ロジミスカリア……ニグドラシュウル」
赤い髪の男の話を聞いて、ボールスはすぐに国の名を答えた。しかも、違う言葉を足して。
「アストラタス」
まるで今まで何か絡まっていた糸を解いたようにはっきりと言葉にした。
「あの、もう少し、話してください。色々、あの……」
色々と聞きたいらしく、赤い髪の男に話しかけるが、唐突に口ごもった。
「差し出がましいと思うのですが、あの……名前を教えていただけますか?」
「あぁ、そうか。紹介がまだだったか。俺はイリオカ=テオドール・クァトルだ。テオでいい」
ボールスに問われ、赤い髪の男ーーテオは名を名乗った。
「イリオカ=テオドール・クァトル……様ですね」
「む、様とか言う柄じゃない」
少しムッとしながらテオは返した。様付けはどこかむず痒いような気がしたし、気持ち悪かった。本当にそう言う柄じゃない。立派でもないし、尊敬されるようなものでもない。
「……」
「様じゃなくて、せめて、何々さんとかそんな感じで呼んでくれ」
だが、ボールスが困ったような顔をしているのを見て言い直した。何々様と呼ばれるよりは何々さんの方が幾分かましだと思った。それに多分、奴隷として生きていた事がその言葉遣いを生んでいるのだろう。自分は一番下で醜いもの。卑屈になるように仕込まれている。
「イリオカ……さん」
「む、ま、まぁ、仕方ない……か」
頭をポリポリと掻きながら、とりあえずはと、妥協した。
「それでなにか聞きたいことがあるんだろ? 時間はじっくりあるからゆっくり話もできるさ」
テオ自身も聞きたいことがあったが、それは後でも大丈夫だろうと思った。それに多分、話してはもらえないかもしれない。思っている疑問を答えてくれる保証はないのだ。
目の前でボールスが何を質問するべきかを考えている様子だった。ふと、テオが気になったのは胸の前に手が移ったかと思うと、何かがないことに気づき手を引いたことだ。
「なぁ、そこに何かあったのか?」
疑問に思ったので聞いてみた。これくらいなら答えてくれるだろうとテオは思った。
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