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また、困ったような顔をしたがボールスは口を開いた。
「いつもロザリオをかけてました。考えるときにはいつも掴んでいたりしたので、半分くらいは癖になっていて……あとで無いことに気づくのです」
少し寂しそうにボールスは話す。肌身離さずに持っていたものだったのだろう。テオは不意に大太刀の方に目を向けた。
それとこれとは違う。
そう思いながらテオは首を横に振った。
「それで、そのロザリオはどうしたんだ?」
「……奴隷として捕まったときに金目のものは全て奪われてしまったのです」
その様子は容易に想像できた。奴隷に必要のないものだからだ。装飾品、武器から服に至るまで、毟り取られるものは全て毟り取る。それはここでのルールだ。弱きは搾取される。全てにおいてだ。
「しかし、金目の装飾品を持っていたと言うことはお前は貴族だったのか?」
「そう、ですね。貴族と言うよりは……」
ボールスはそこで不意に口ごもった。貴族でなければ何なのだろうか。
「いえ、何でもありません。それに私は今は奴隷です。過去がどうであろうが揺るがない」
ボールスは手首をそっと掴む。そこに何かあると言うように。テオは知っていた。奴隷には奴隷の証がある。両手両足に模様が描かれる。そして、胸にも。落とすことはできない。
それは顔料などで書かれるものではない。ましてや刺青のように彫るものではない。その奴隷の証しは特別な魔力でつけられる。解くことはできない。奴隷として囚われたら一生奴隷として囚われたままなのだ。
「……あの、ひとついいですか?」
「む?」
「イリオカさんはどこから来たんですか? 他の方とは少し違うような気がします」
ボールスは静かにそう言った。悪意も他意もない疑問だったのだろう。だが、テオは眉をしかめた。
「どこでもいいだろう。俺がどこから来て、どこへ行くのか関係のないことだ。これから先も……誰に問われようが変わることはない」
他の人間と違う。そんな言葉が嫌いだった。テオは間違いなく冷たい言葉で返していると思った。冷めて凍りついた棘のある言い方。ボールスがその言葉で凍りついたように止まっていた。
どこに行っても付きまとうのは異質な目線。つまらないなとテオは思い、深い溜め息を吐いた。
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