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『…やはり人の気持ちを入れすぎたか。』
背中に回した手で妻の後頭部の皮膚をずるりと捲り、強制終了のスイッチを下ろす。
すると妻の動きは停止し、自立出来ずに私にもたれるように倒れ込んだ。
重たい塊だ。
煩わしさから身を引くように後退りすると、妻だった塊はバタンと音をたて足元へと崩れた。
その際に首の接合部が折れたようだが、もはやどうでも良いことだった。
『記憶以外は…、破棄しよう。私としたことが今回のは失敗作だったようだ。2年前の型の方が見た目も好みだった。』
10年前に完成した妻は、姿形を2度も3度も変えながら、今日まで私の元に在り続けた。
そしてこれからも、記憶だけをデータとして引き継いで、人生を共にしてゆくのだ。
私が朽ちるその日まで。
『ああ…でもこの記憶は破棄しないと。』
記憶が保存されている外付けプログラムだけを抜き取る。
我が子のいる生活を体験出来たことは良かったが、このような暴発があると厄介だ。
子が欲しいと言った会話は抜き取って、妻は私と2人の生活に満足していると書き換えよう。
大小2つの塊から滴る液体が、私の靴を汚してゆく。
『…これも捨てるか。』
私は発明家だ。
古きには振り返らず、より新しくより良いものへと思考を動かすことが私の仕事であり、人生である。
取り急ぎ新しい妻を用意せねば、と、アルミニウムの塊を踏み越えて、早速デスクに向かうことにした。
Al13 fin.
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